【2026年版】マレーシアで障がいのある人が暮らす環境|OKUカード・交通・運転免許で実際に使える制度

「クアラルンプールは車いすで移動できますか」
「マレーシアで障がいのある家族と暮らすことになったのですが、使える制度はありますか」

こうした問い合わせをいただくことがあります。答えは「街のつくりは今も厳しい。ただし制度の側はこの数年でかなり動いた」です。

マレーシアには建物のバリアフリーを義務づける法令が1990年代から存在します。それでも街を歩けば、段差がむき出しの歩道や、スロープのない小さな店舗にすぐ出会います。法令はあるが執行が追いついていない、というのがこの国の現実です。一方で、公共交通の運賃や自動車税の免除といった「申請すれば受け取れる支援」は、2024年以降にはっきり手厚くなりました。

この記事では、実際に街を歩いて感じるハード面の課題と、OKUカードを軸に使える制度、そして運転免許を取るまでの手順を整理します。

街のつくりで実際に困るところ

歩道の整備は区間によって差が大きく、車道との段差が高いところでは600mmほどある場所もあります。そもそも歩道がない区間も珍しくありません。

ショッピングモールにはエレベーターがありますが、地元の小さなショップロットには付いていないところが多くあります。床材はタイルが主流で、雨の日やモップ掛けの直後はよく滑ります。トイレの床も、紙ではなく水で洗う習慣があるため常に濡れています。健常者でも足元に気をつけていないと転ぶ場所です。

モールの中にも不意の段差が設けられていることがあります。よく見かける対策は、黄色いテープを貼って注意を促すというものです。スロープが後から付けられることはあまりありません。

こうした環境では、車いすで街中を自力で移動できるかどうかは区間しだいになります。整備されたMRT駅の周辺と、古いショップロットが並ぶ通りとでは、まったく別の街だと考えた方が実態に近いです。

■ 法令がないわけではない

建物のアクセシビリティは、統一建築物規則(UBBL)の By-Law 34A によって義務づけられています。障がいのある人が建物に出入りし、内部を移動できるようにすることを建物側に求める条文です。技術的な基準としては、MS 1184:2014(建築環境におけるユニバーサルデザインとアクセシビリティ)と MS 1331:2003(建物外部のアクセス)が定められています。

つまり、問題は基準の不在ではなく、執行の弱さです。違反しても実質的な不利益が生じにくいため、既存の建物ほど改修が後回しになります。逆に言えば、罰則と期限が入れば状況は動く余地があるということでもあります。実際、2026年に議論が進んでいる障害者法(Persons with Disabilities Act 2008)の改正案では、強制力のあるアクセシビリティ基準・期限付きの適合義務・違反への罰則を盛り込む方向が論点になっています。

OKUカードを持っているかで扱いが変わる

マレーシアで障がいのある人向けの制度を使うときの入口は、社会福祉局(JKM)への登録と、そこで発行される OKUカード(Kad OKU) です。「OKU」は Orang Kurang Upaya の略で、行政文書でも日常会話でもこの呼び方が使われます。

このカードがないと、以下の支援はほぼ受けられません。逆に、登録さえ済ませれば申請できるものがまとまってあります。

OKUカードで申請できる主なもの

  • 自動車税(ロードタックス)の免除 — 本人名義、または未成年の場合は親・保護者名義の車1台について100%免除を申請できる
  • 運転免許の手数料軽減 — JPJが定める名目上の低額で免許の取得・更新ができる
  • 公共交通の運賃 — Prasarana系(LRT・MRT・モノレール・RapidKLバス)は「OKU Smile」で無料。路線・事業者によっては50%割引の扱いのものもある
  • 国内線の割引 — マレーシア航空の国内線などで割引が設定されている

ただし、これらは自動的に付いてくるものではなく、すべて申請が要ります。窓口も一本化されておらず、自動車税はJPJ、福祉手当はJKM、交通カードは事業者のカウンターと分かれています。渡航直後の家族が自力で全部を把握するのは、正直かなり大変です。

制度が動いてきた流れ

2008年 — 障害者法(Persons with Disabilities Act 2008)が成立。OKU登録の制度的な土台ができる。

2013年3月 — 障がいのある人の運転免許更新料がRM2に引き下げられる。当時のThe Starの報道が残っています。ロードタックスも同時期にRM1へ。

2024年2月 — Prasaranaが「OKU SMILE」を開始し、LRT・MRT・モノレール・RapidKLバスの運賃が割引から無料に切り替わる。以前の50%割引からの実質的な引き上げです。

2026年度予算 — 寝たきりのOKU・就労困難な人・OKU就労手当の受給者への支援として総額約RM14億が計上。Prasaranaが車いすリフト付きの移動支援バン100台を導入する計画、18歳未満の子どもの早期療育・リハビリ費用の所得控除枠をRM6,000からRM10,000へ引き上げる方針も盛り込まれました。

2026年1月 — 障害者法の改正・強化を求める共同声明に、当事者団体を含む210の個人・団体が賛同。教育・医療・雇用・金融サービス・物理的およびデジタルのアクセシビリティで差別が残っているとして、実効性のある法改正を求めています。

運転免許を取るという選択肢

マレーシアでは、車がなければ自立した生活を組み立てるのが難しいのが実情です。世帯に1台どころか、一人1台という家庭も珍しくありません。だからこそ、障がいのある人にとっても運転免許の意味は日本より大きくなります。

ところが、免許を取る側のハードルは高いままです。障がいのある人向けの教習を扱っていない教習所が多いのが現実です。国として障がいのある人を指導するための教官向けトレーニングが整備されておらず、教官にとっては未知の領域になります。危険を感じて引き受けない、という判断につながります。加えて、教習所そのものがショップロットの上階にあるなど、施設側がユニバーサルデザインになっていないことも少なくありません。

Safety Driving Centre (Selangor) Sdn Bhd

障がいのある人向けの教習(A1 OKUクラス)を扱っている、数少ない教習所のひとつです。JPJ認可の教習所として、運輸省とJPJが承認した方式で指導を行っています。

営業時間:月曜〜金曜 8:30AM–6:30PM / 土曜・日曜 8AM–4PM
連絡先:Tel 03-79570370 / 03-79570371 / 03-79570635 / customercare@sdc.com.my
所在地:Lot 3A Jalan Utara, 46200 Petaling Jaya

注意しておきたいのは、教習所が障がいのある人向けの車両を用意しているとは限らないという点です。講習と試験のときには、Puspakom(車両検査場。車の登録や名義変更の際に検査を受ける施設)で認可を受けた車を自分で持ち込まなければならない場合があります。改造車の認可と車両の手配が、免許取得の前段階として立ちはだかることになります。

連絡先や受け入れ条件は年月とともに変わります。問い合わせる前に、電話番号と所在地が現在も有効かどうかを一度確認してください。この記事に載せているのは過去に確認した情報です。

よくある疑問

Q. 外国人でもOKUカードは取れますか?

OKU登録は基本的にマレーシア国民を対象とした制度で、外国籍の駐在員や帯同家族がそのまま同じ支援を受けられるとは限りません。滞在資格によって扱いが変わるため、JKMの窓口で直接確認するのが確実です。ここは断定を避けます。

Q. 車いすでMRTやLRTに乗れますか?

乗れます。Prasarana系の路線には低床バスと車いすスペースが用意されており、改札には車いす・ベビーカー・大型荷物が通れる幅広ゲートが最低1つは設けられています。ただし駅までの経路が整っているかは別問題で、駅前の歩道で詰まることは普通にあります。「駅は使えるが、駅までが使えない」というのが実感に近いです。

Q. 街のバリアフリーはこれから良くなりますか?

交通と現金給付の分野は、この2〜3年で確実に前進しました。一方で、建物や歩道といった物理的な環境は、罰則を伴う執行の仕組みが入るまで大きくは変わらない可能性が高いです。改善のスピードは分野ごとにまったく違う、と考えておくのが現実的です。

まとめ

マレーシアの街は、障がいのある人にとって今も歩きやすい場所とは言えません。段差、滑る床、スロープの不在。基準を定めた法令はあるのに、それが守られているかを確かめる力が弱い状態が続いています。

それでも、公共交通の運賃無料化、自動車税の免除、予算措置の拡大といった形で、制度は確実に前へ動いています。大事なのは、使える制度が「申請しないと始まらない」形になっていることです。OKUカードの登録を済ませ、自動車税と交通カードの窓口を押さえておくだけで、日々の負担はかなり変わります。

制度は毎年のように更新されます。実際に手続きをする前には、JKM・JPJ・各交通事業者の公式窓口で最新の条件をご確認ください。

コメント