【3か月の実測】マレー語は本当に「世界一簡単」なのか|独学でどこまで話せるようになったかの記録

マレー語を3か月やってみて、実際にどこまでできるようになったか

「マレー語は簡単だと聞くけれど、3か月で本当に話せるようになるのか。」
「単語帳は買った。でも、どこまでできるようになるのかが見えないまま続かない。」

マレーシアで暮らし始めた日本人から、こうした声を聞くことが増えています。マレー語はアルファベット表記でカタカナ読みに近く、声調も動詞の活用もありません。「簡単な言語」という評判が先に立ちやすい一方で、「3か月でここまで来た」という到達点の記録がほとんど出回っていないのが現実です。ゴールが見えないまま始めるので、続かないのは当然と言えます。

そこで、毎日2時間を目標に3か月続けてみました。この記事では、その結果をレストランでの注文・会話の聞き取り・テレビと映画・スピーキング・ライティング・リーディングの6つに分けて、できたこと/できなかったことをそのまま記録します。あわせて、続けてみて分かった伸びる勉強法と伸びない勉強法、実際に使った教材も紹介します。

「世界一簡単な言語」は本当か

マレー語が学びやすいと言われる根拠ははっきりしています。文字はアルファベットで、しかもほぼローマ字読みで通じます。中国語のような声調はありません。名詞に性別がなく、動詞は主語や時制で形を変えません。「昨日」「明日」といった時を表す語を添えるだけで時制を示せます。英語由来の外来語も多く、televisyen(テレビ)、polis(警察)、komputer(コンピューター)のように、綴りを見た瞬間に意味が分かる単語が相当数あります。

ただし「世界一簡単」という言い方は、根拠を確かめると正確ではありません。米国務省の外交官養成機関FSI(Foreign Service Institute)は、英語話者が各言語を習得するのに必要な時間を4段階に分類しています。その分類でマレー語・インドネシア語が置かれているのは、最易のカテゴリーIではなくカテゴリーIIです。

FSIの区分 目安の学習時間 代表的な言語
カテゴリーI 約600〜750時間(24〜30週) フランス語・スペイン語・イタリア語
カテゴリーII 約900時間(36週) マレー語・インドネシア語・ドイツ語・スワヒリ語
カテゴリーIII 約1,100時間(44週) ロシア語・ヒンディー語・ベトナム語
カテゴリーIV 約2,200時間(88週) 日本語・中国語・韓国語・アラビア語

英語話者にとってマレー語は「最易」ではなく、ドイツ語と同じ中位というのがFSIの見立てです。

逆に言えば、日本語話者にはこの表よりも有利な条件がそろっています。文字を新しく覚える必要がなく、声調もなく、動詞の活用表を暗記する作業も発生しません。英語を学んだときに苦しんだ三大関門が、そのまま丸ごと存在しないわけです。900時間という数字は英語話者を前提にした目安であって、日本語話者の体感はもう少し軽くなります。

それでも「メリットしかない」とは言えません。3か月続けて、はっきり壁だと感じた点が3つありました。

1. 教科書のマレー語と、街で話されているマレー語が違う

教科書に載っているのは標準マレー語です。街で耳に入るのは bahasa pasar(市場のことば)と呼ばれる口語で、語尾が落ち、英語や中国語の単語が混ざります。教科書どおりの文を作れても、返ってきた言葉が聞き取れないという状態が長く続きます。

2. クアラルンプールの都市部では英語で足りてしまう

モールでも役所でも病院でも、英語で用が足ります。つまり、意識して機会を作らないとマレー語を使う場面が一度も訪れないまま1日が終わります。学習が止まる最大の原因は難易度ではなく、この「使わなくても困らない」環境です。

3. 日本語で書かれた教材が少ない

日本語の入門書は数えるほどしかなく、中級以降になると日本語の教材はほぼ尽きます。ある段階から先は、英語で書かれた教材か現地の教材に切り替える必要があります。

逆に言えば、難しいのは言語そのものではなく、練習の機会を自分で設計する部分です。3か月やってみて、いちばん時間を取られたのは文法でも単語でもなく、この一点でした。

3か月の学習設計と、実際にできたこと

立てた目標は「毎日2時間、1回2時間で区切って学ぶ」というものでした。細かい文法は後回しにして、少しでも早く会話ができるようになることを優先する作戦です。正直に書くと、毎日2時間を守れたわけではありません。むしろさぼりがちな時期もありました。

続いた理由は、教材よりも人でした。同じ時期に勉強を始めたアメリカ人の学習意欲がすさまじく、その進み方を見るたびに刺激を受けていました。もう一人、強く影響を受けたのが、近所に住むバングラデシュ出身の人です。この人はマレーシア滞在4年ほどでマレー語を完璧に身につけ、マレー人の部下に指示を出して働いていました。言われなければバングラデシュ人だとは分からないレベルです。その人に強く勧められたのが、後述するテレビ・映画を使う方法でした。

技能別に見た、3か月後の到達度

3か月経った時点の到達度を、6つの技能に分けて記録します。評価は自己申告ですが、「何ができて何ができないか」を具体的に書きます。

技能 3か月後 具体的な状態
レストランでの注文 ◎ 問題なし ただし勉強を始める前から押さえていた領域
会話の聞き取り △ 相手による 中華系・インド系は理解しやすい。マレー系ネイティブとインドネシア人は歯が立たない
テレビ・映画 × 追えない 会話速度が速く、字幕付きの素材を見つけるのが難しい
スピーキング △ 変換しながら 頭の中で日本語からではなく、英語からマレー語に変換している
ライティング ○ 手応えあり 書くたびに辞書で確認するので、単語の定着率が明確に上がる
リーディング × 辞書が手放せない 接辞のついた変化形を毎回引き直している段階

3か月で伸びるのは「書く」と「注文する」。「聞く」と「読む」は3か月では足りません。

■ レストランでの注文 ── 勉強前から唯一できていた領域

注文は一応ちゃんとできるようになっています。とはいえ正直なところ、勉強を始める前からここだけは押さえられていました。食事は毎日発生するので、覚えざるを得なかったというのが実際です。逆に言えば、nasi(ご飯)、ayam(鶏)、bungkus(持ち帰り)、kurang manis(甘さ控えめ)といった十数語は、教材を開かなくても3日で身につきます。ここを最初のとっかかりにするのは理にかなっています。

■ 会話の聞き取り ── 中華系・インド系のほうが分かりやすい

聞き取りは本当に相手によります。傾向としては、中華系マレーシア人とインド系マレーシア人が話す内容のほうが理解しやすく感じました。彼らの多くにとって、マレー語は母語ではないからだと考えています。英語でも同じことが起きます。ネイティブスピーカーの話す速度は最初とても速く感じますが、非ネイティブ同士だと不思議と通じる。それと同じ現象でしょう。

実際、先日インドネシア人が話しかけてきてくれたときは、残念ながら何を言っているのかまったく分かりませんでした。会話で使う単語がそもそも違うのだと思います。マレーシアとインドネシアは同系統の言語ですが、綴りも語彙も一致しません。khabar(マレーシア)と kabar(インドネシア)、mahumaukelmarinkemarin のように、日常語の段階から差があります。

話題の影響も大きいものでした。文脈が分かっていれば、単語をいくつか拾うだけである程度は推測できるようになります。ただし推測が効かない話題では、いまだにまったく分かりません。

■ テレビ・映画 ── 速すぎる。そして字幕が見つからない

テレビと映画は、全体的に会話の速度が速く感じます。この方法はバングラデシュ出身の知人に強く勧められて取り入れたものですが、毎日見るのは時間的に無理があり、時間のあるときに時々見る程度にとどまりました。

最大の障害は素材です。YouTubeにはマレー語の動画が大量にありますが、字幕付きのものになると急に見つからなくなります。字幕なしの動画は、初級の段階では音の壁を越えられず、聞き流しに終わってしまいます。読者の方から、この点について貴重な情報をいただきました。

【更新】マレーシア在住の方に以下の素晴らしい情報を提供していただきました。
こんにちは。大変参考にさせていただいています。
Malaysiaの良いTV番組ついてです。わたしが以前教わっていたマレー語の先生から,下記のドラマがいいと勧められました。Gunting The Series: Episode 1《 Malay drama with English subtitles 》

Gunting The Series: Episode 1《 Malay drama with English subtitles 》
Salihin & Sons is back to a new and bigger location, and business is booming! But what happens when there's a blackout o...

多民族国家を理解するのにもいいと,いわれました,

ありがとうございます。英語字幕付きのマレー語ドラマは、マレー語の学習素材であると同時に、多民族国家マレーシアの内側を理解する教材にもなります。ほかにも、Netflixや Disney+ Hotstar のマレーシア向けラインナップには英語字幕付きのマレーシア作品が増えており、YouTubeでも制作会社の公式チャンネルが英語字幕付きで全話公開している例があります。探すときは作品名に「English sub」または「sarikata Bahasa Inggeris」を添えて検索すると当たりやすくなります。

■ スピーキング ── 日本語ではなく英語から変換している

少しずつ話せるようにはなってきています。マレーシアの人は、多少おかしくても一生懸命に推測して聞いてくれます。ありがたい反面、伝えたいことと全く違う内容で理解されていることもあり、それに後から気づくこともありました。

興味深かったのは変換経路です。まだ頭の中で言語を変換しながら話している段階なのですが、そのとき日本語からマレー語ではなく、英語からマレー語に変換している自分がいました。英語は母語ではありません。それでも脳が英語を経由するのは、マレー語と英語のあいだに語順や外来語の共通点が多く、そちらのほうが処理が軽いからだと考えています。つまりマレー語を学ぶなら、日本語の教材だけでなく英語で書かれた教材を使ったほうが効率がよい可能性があります。ただしこれは英語にある程度慣れている人に限った話で、英語が負担なら日本語の教材で進めるほうが確実です。

■ ライティング ── 3か月でいちばん伸びた技能

書くという作業は、今まで学んだ単語を辞書で再確認する機会になります。そのぶん単語の定着率が上がる実感がありました。さらに効果的だったのは、ネイティブスピーカーに校正してもらうことです。自分では思いつかない自然な言い回しがそこで手に入ります。

実際にマレー語で記事を書き始め、このサイトにもマレー語版のページを置いています(たとえばRumah yang Percuma di Japun)。間違った表現やより分かりやすい言い方があれば、教えていただけると助かります。書いたものを人目にさらす前提にすると、辞書を引く手が明らかに丁寧になります。

■ リーディング ── 接辞の壁でまだ止まっている

読解はまだまだです。辞書が手放せませんが、推測できる範囲は少しずつ広がっています。つまずくのは接辞です。マレー語は語頭に pe-me-mem- などを付けたり、語尾に -an-kan を付けたりして語を派生させます。tolong(助ける)から menolongjaga(見張る)から menjaga という具合です。読むたびに辞書を引き、「この単語は前に覚えたあの語の変化形か」と確認する作業が続きます。

この派生には規則性がありますが、規則表を先に暗記しても読解速度は上がりませんでした。英語を学んだときと同じで、量にあたって雰囲気で掴んでいくほうが早い。マレー語を学ぶマレーシア人自身も、そのように身につけているようです。

3か月やってわかった、伸びる勉強法と伸びない勉強法

同じ時間を使っても、効き方はまったく違いました。3か月分の実感を4つに整理します。

1単語を増やすことが、遠回りに見えていちばんの近道

文法をどれだけ整理しても、単語を知らなければ会話は推測すらできません。逆に単語さえ入っていれば、文法が怪しくても意味は通ります。3か月続けて最も効果があったのは、結局のところ語彙を増やす作業でした。単語が増えると、聞き取れなかった会話を文脈から推測できる確率が上がります。この「推測できる率」が上がることこそが、初級で体感できる唯一の進歩です。

2書く → 直してもらう、のセットで初めて効く

書きっぱなしでは効果が薄く、ネイティブに直してもらって初めて定着します。短くていいので毎回誰かに見せる。SNSの短文でも、チャットの返信でも構いません。直された箇所は忘れません。

3字幕なしの動画を大量に流すのは、初級では効かない

上級者には有効でも、3か月の段階で字幕なしの動画を流し続けても、音が意味に結びつきません。字幕付きの素材を少数、繰り返し見るほうが確実でした。素材探しに時間を使う価値があります。

4使う相手を先に決める

都市部では英語で全て済んでしまうため、意識しないとマレー語を一言も話さない日ができます。屋台の常連になる、警備員に毎朝声をかける、語学交換の相手を決める。誰に話すかを先に決めておかないと、教材の進度だけが進んで会話は伸びません。ここが3か月で最も反省した点です。

使った教材と、次に手を伸ばすもの

入門の1冊としては、白水社の『ニューエクスプレスプラス マレー語』が定番です。全20課で会話と文法を一通りさらえて、CD収録と同じ音声をアプリでも聴けます。大学のマレーシア語の授業でも採用されている教材で、独学の1冊目として選んで外れがありません。

無料で使えるものとしては、東京外国語大学が公開している言語モジュール(マレーシア語)が優秀です。発音・会話・文法・語彙が音声つきで整理されており、費用はかかりません。単語アプリは学習習慣を作るのには向きますが、アプリだけでは文法の理解が浅いままになります。紙の教科書1冊とアプリの併用が現実的な組み合わせです。

挨拶から数字、自己紹介、買い物、動詞と時制、助数詞までの基礎は、マレー語の入門12テーマをまとめた記事に一通り整理してあります。独学ではなく教室で学びたい場合は、クアラルンプールの語学学校について書いた記事を参照してください。

3か月の結論

3か月の学習で、目を見張るほどの成果が出たわけではありません。到達点を正直に言えば、注文はできる、話題が分かっていれば会話の要旨は追える、書けば直してもらえる、読むのは辞書頼み、という状態です。FSIの目安である900時間から見れば、毎日2時間を3か月続けたところで180時間、全体の2割にすら届いていません。3か月で流暢になるという期待は、最初に捨てたほうがいいというのが率直な結論です。

それでも、単語を覚えた分だけ推測できる範囲は確実に広がりました。会話が成立する瞬間は着実に増えています。マレー語は難しい言語ではありません。難しいのは、英語で足りてしまう環境の中で、使う場面を自分でつくり続けることです。そこさえ設計できれば、あとは時間の問題になります。

簡単な言語といっても覚えることはたくさんあるね。少しづつでも継続していけば大丈夫!いつか必ずできるようになるよ。

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