直訳すると「Malaysia Can!」。Bolehはマレー語で英語のCanに当たる単語で、日常会話でもよく耳にします。仕事でできるかどうか聞いたとき「Boleh!」、それで結局うまくいかなかったとき「Boleh lah, never mind lah」。マレーシアにはこの”Boleh-Boleh精神”がそこかしこに漂っています。時にはそれに振り回されつつも、どこか憎めない国民性でもあります。
もともとはポジティブなスローガンだった
この「Malaysia Boleh」というフレーズ、実はもともと皮肉ではなく、非常にポジティブな意味で掲げられたものでした。最初に打ち出したのは1980年代、当時のマハティール首相です。2020年までの先進国入りを目指す取り組み(Vision 2020)のもと、ペトロナスツインタワーの建設や新国際空港の計画など数々のプロジェクトが進められ、「マレーシア人ならできる!」という反骨精神あふれるスローガンでした。当時のマレーシアは、近隣のシンガポールや欧米諸国に対する強いキャッチアップ意識を持っており、国民全体を鼓舞する意味合いが強かったと言われています。
しかしその後、建築物の不具合など様々なニュースが取り沙汰されるようになり、いつしか「Malaysia Boleh」は少し皮肉を込めたユーモラスな言い回しとしても使われるようになりました。何かうまくいかないことがあった時、深刻に受け止めすぎず「まあ、Malaysia Bolehだから仕方ない」と笑い飛ばす、一種のガス抜き・処世術としての側面も持つようになったのです。
今も生き続ける”Boleh精神”
道路を逆走するバイク、雨が降ると遅くなるインターネット、なぜか道を歩いているダチョウ…「Malaysia Boleh」と笑って受け流す場面は、マレーシアで暮らしていると今も日常のあちこちで出会います。日本であれば「ありえない」「クレーム案件」と受け止められるような出来事も、こちらでは「Boleh lah」の一言で丸く収まってしまうことが多々あります。
ビジネスの現場での”Boleh”の使われ方
ビジネスシーンでは少し注意が必要な言葉でもあります。取引先や現地スタッフに何かを依頼した際「Boleh!(できます!)」という返事をもらっても、実際には「なんとかなるだろう」という楽観的なニュアンスが含まれていることがあり、日本的な「確実にできます」という意味とは温度差があるケースも見られます。納期や仕様が重要な案件では、「Boleh」という返事を鵜呑みにせず、具体的な期日や条件を書面やチャットで確認しておくことが、トラブル回避のコツと言えるでしょう。
異文化理解のヒントとして
この「Boleh精神」は、マレーシアという多民族国家が持つ柔軟性・寛容さの表れとも捉えられます。マレー系・中華系・インド系など多様なバックグラウンドの人々が共存する中で、細かいことにこだわりすぎず「なんとかなる」で前に進む姿勢が、社会全体の摩擦を減らす知恵として機能してきた側面もあるのかもしれません。マレーシアで生活・ビジネスをする上では、この国民性を頭ごなしに否定するのではなく、時にはうまく付き合っていく姿勢が求められます。
似た表現は世界各地にある
実はこうした「なんとかなる精神」を表す言葉は世界各地に存在します。スペイン語圏の「Mañana(マニャーナ、明日でいいさ)」、タイの「マイペンライ(気にしない)」、インドネシアの「Jam Karet(ゴムの時間=時間にルーズ)」なども、似た文化的ニュアンスを持つ言葉として知られています。マレーシアの「Boleh」も、こうした東南アジア〜熱帯圏に共通する、ゆったりとした時間感覚・柔軟な物事の受け止め方を象徴する言葉の一つと言えるでしょう。
マレーシア生活を楽しむための心構え
マレーシアで長く暮らしていると、日本の感覚では「なぜ?」と思うような出来事に何度も遭遇します。バスが時間通りに来ない、工事の予定が突然変わる、書類の手続きが窓口によって説明が違う…そんな時こそ「Malaysia Boleh」の精神を思い出してみてください。全てを完璧にコントロールしようとするのではなく、ある程度の”遊び”を持って構えることが、この国でのストレスを減らす一番のコツかもしれません。肩の力を抜いて、この国ならではのペースを楽しむ余裕を持てるようになると、マレーシア生活はぐっと快適になるはずです。今日も誰かが「Boleh lah!」と笑いながら、次の一手を考えているはずです。そんな「Boleh」の精神も、マレーシアという国の面白さの一つです。皆さんもぜひ、日々のちょっとした「Boleh」を探してみてください。きっと新しい発見があるはずです。マレーシア生活が、より楽しいものになりますように。



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