【スロープの長さは高さで決まる】店舗入口のスロープ・段差を外観パースで確認したい5つのポイント|「段差なしでフラットに」と図面の食い違い

たとえば、こんな食い違いがあり得ます。
「入口はフラットに見せたい。段差のないバリアフリーな店舗にしてください。」
「でも、図面では道路面から店内の床まで30センチ上がっているんだよな。」

※アイキャッチ画像は解説用のイメージで、実際の制作事例ではありません。

店舗の外観パースでは、入口まわりが一番目に入ります。道路から入口の戸までの段差やスロープは、図面では小さな線でも、パースでは「入りやすそうか」を決める大きな要素になります。「フラットに」と書くだけでは、図面どおり少し上がった床を描くのか、段差をなくして見せるのか、制作側は判断できません。

入口の床が高いほど、スロープは長く必要になるのが現実です。入口の床が高いのに、スロープを短く描いてしまえば、実物とパースで入口の印象が大きく食い違います。逆に言えば、床の高さと勾配の関係を先に押さえておけば、「フラットに見せたい」という要望を、図面と矛盾しない形で伝えられます。

この記事では、店舗入口のスロープ・段差を外観パースで描くときに確認したい5つのポイントを、高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)の施行令と、建築基準法施行令の条文をもとに整理します。適用の有無や適合の判断は、設計者と確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。

先にお断りしておきます

なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者は「ここからは筆者の見立てです」と書き出します。条文は要旨を言い換えており、実際の規定は必ず原文でご確認ください。

記事中の図の寸法は説明用の仮の数値です。

① まず、入口の基準が適用される建物かを確認する

バリアフリー法第14条第1項は、特別特定建築物のうち政令で定める規模以上のものを建築するとき、建築物移動等円滑化基準に適合させなければならないと定めています。政令(バリアフリー法施行令)第9条は、その規模を床面積の合計2,000平方メートルとしています(増築・改築・用途変更の場合は、その部分の床面積で判断します)。特別特定建築物には、同施行令第5条で、百貨店・マーケットその他の物品販売店舗、飲食店、理髪店・クリーニング取次店・銀行などのサービス業の店舗などが挙げられています。

また、同法第14条第3項では、地方公共団体が条例で、対象の追加、規模の引き下げ、基準の付加ができるとされています。条例で規模が引き下げられていない地域では、2,000平方メートル未満の特別特定建築物について、同条第5項で、基準に適合させるために必要な措置を講ずるよう努めることとされています。戸建住宅やその他の用途の扱いは、条文と条例で別に定まるため、この記事では立ち入りません。

入口の基準が義務になるかの確認(流れ) ① 用途 特別特定建築物か ② 規模 2,000㎡以上か はい はい 適合が義務 (第14条第1項) いいえ いいえ ③ 条例 用途の追加・規模の引下げ あり 適合が義務 (条例による) なし 特別特定建築物なら努力義務
用途と規模を確かめたうえで、条例による用途の追加・規模の引き下げ・基準の上乗せを確認します。2,000㎡未満でも条例で義務になることがあり、義務でない特別特定建築物にも努力義務があります。最終的な判断は設計者と確認申請先に委ねます。

ここからは筆者の見立てです。小さな店舗では、義務の対象かどうかにかかわらず、条例や発注者の方針で入口を基準に沿って設計することがあります。パースを依頼する前に、入口のスロープや段差が基準を意識した設計になっているかを、設計者に確認しておくと、食い違いを減らせます。

② スロープの長さは、床の高さと勾配で決まる

バリアフリー法施行令第19条第2項第七号ニは、移動等円滑化経路を構成する敷地内通路の傾斜路について、勾配は12分の1を超えないこと、ただし高さが16センチメートル以下のものは8分の1を超えないこと、と定めています。「超えない」は上限ですので、より緩やかにすることもできます。

勾配が12分の1とは、高さ1に対して水平距離が12必要という意味です。条文の数値で計算すると、高さ0.3メートルの段差を12分の1で処理する傾斜部分は、水平に3.6メートルになります(0.3×12)。高さ0.15メートルなら、12分の1で1.8メートルです。高さ16センチメートル以下に限り8分の1まで急にできますが、それでも傾斜部分は1.2メートル必要です。

12分の1のスロープに必要な水平距離(仮の数値) 高さ方向は3倍に拡大して表示 高さ0.15m 水平1.8m 高さ0.3m 水平3.6m 高さ0.6m 水平7.2m 1m(水平の目安) 青=店内の床
水平方向は同じ縮尺、高さ方向だけ3倍に拡大しています。床の高さが倍になると、傾斜部分の水平距離も倍になり、道路側に必要な奥行きが増えます。

計算の早見(勾配12分の1のとき)

傾斜部分の水平距離=床の高さ×12です。高さ0.15mなら1.8m、0.3mなら3.6m、0.6mなら7.2m、0.9mなら10.8m(このほかに踊場が必要)になります。高さ16cm以下は8分の1まで可で、0.15mなら1.2mです。

なお、建築基準法施行令第26条第1項第一号は、階段に代わる傾斜路の勾配を8分の1を超えないことと定めています。バリアフリー法側の基準とは別の規定で、どちらも関わりうるため(数値の上では、より緩い8分の1よりも12分の1のほうが先に効きます)、どの部分にどちらが適用されるかは、設計者と確認申請先が判断する領域です。

ここからは筆者の見立てです。パース依頼では、「入口の床の高さ(道路面または地盤面からの寸法)」と「スロープの勾配・長さ」を、断面図か立面図で示すと確実です。「フラットに」という要望と、図面上の高さのどちらを優先するかも、依頼文に一言添えてください。

③ 幅と踊場が、入口まわりの外構の広さを決める

同じ第19条第2項第七号は、敷地内の通路の幅を120センチメートル以上とし、傾斜路の幅について、段に代わるものは120センチメートル以上、段に併設するものは90センチメートル以上としています。さらに、高さが75センチメートルを超える傾斜路(勾配が20分の1を超えるものに限る)には、高さ75センチメートル以内ごとに、踏幅150センチメートル以上の踊場を設けることとされています。

条文どおりに計算すると、高さ0.6メートルは75センチメートル以内ですので踊場は原則として条文上必要になりません。一方、高さ0.9メートルであれば、12分の1の傾斜部分だけで水平10.8メートルになり、原則として少なくとも1か所の踊場が必要になる計算です。踊場の長さは、その分の水平距離が別に加わります。

傾斜路と踊場の関係(真上から見た模式図) › › › › › › 傾斜路 踊場 傾斜路 踏幅150cm以上 (進む向きの長さ) 幅120cm以上 (段に代わる場合) 高さ75cm以内ごとに踊場を設ける
縮尺のない模式図です。踊場の条件は、高さ75cmを超え、かつ勾配が20分の1を超える傾斜路に掛かります。踊場の分だけ、入口までの長さはさらに伸びます。

ここからは筆者の見立てです。スロープと踊場は、入口の脇や前面の外構の広さをかなり使います。植栽やベンチ、駐輪スペースを入口の近くに描きたいときは、スロープの占める範囲と重ならないか、図面で確認しておくと安心です。外構・植栽の描き方は、別記事「外観パースの外構・植栽を自然に見せる5つのポイント」にまとめています。

④ 手すり・表面・見分けやすさは、描き忘れやすい

バリアフリー法施行令第17条は、不特定かつ多数の者が利用し、または主として高齢者、障害者等が利用する敷地内の通路について、表面を粗面とし、または滑りにくい材料で仕上げることを求めています。段がある部分には、手すりを設けること、踏面の端部と周囲との色の明度、色相または彩度のいずれかの差が大きく、段を容易に識別できること、段鼻の突き出しなどつまずきの原因となるものを設けない構造とすることが定められています。

傾斜路については、勾配が12分の1を超える、または高さが16センチメートルを超えかつ勾配が20分の1を超える傾斜がある部分に、手すりを設けること、前後の通路との色の明度、色相または彩度のいずれかの差が大きく、その存在を容易に識別できることが定められています。

ここからは筆者の見立てです。手すりは細い部材のため、外観パースでは描き漏れやすい要素です。依頼文に「手すりの有無・位置」を図面で示しておくと、制作側が省略せずに描けます。また、スロープや段を色の差で見分けやすくするときは、色の組み合わせによって見え方が変わる人もいます。色だけで伝えるときの注意点は、別記事「ゾーニング・動線の色分け図を依頼する前に決めたい5つのこと」で触れています。

⑤ 出入口は、段を設けず、戸の前後に高低差を作らない

基準が適用される建物では、バリアフリー法施行令第19条第2項が、移動等円滑化経路について、第一号で階段や段を設けないこと(傾斜路や昇降機を併設する場合を除く)を定めています。第二号では、経路を構成する出入口の幅を80センチメートル以上とし、戸を設ける場合は、自動的に開閉する構造その他の車椅子使用者が容易に開閉して通過できる構造とし、かつその前後に高低差がないこととしています。

ここからは筆者の見立てです。入口まわりのパースでは、スロープを緩やかに描いても、戸の手前で床の高さが急に変わる描き方になっていると、図面とのずれが目立ちます。戸の前後の床の高さをそろえた状態で描いてよいか、足元のマットや見切り材の厚みまで表現したいかを、依頼文で伝えておくと、制作側が迷いません。

戸の前後の床の高さ(横から見た模式図) ○ 前後がそろう 高低差なし × 戸の手前で段差 戸の位置で床が上がる
縮尺のない模式図です。基準が適用される経路では、戸の前後に高低差がないことが求められます。スロープを緩やかに描いても、右のように戸の位置で段差が残ると図面とずれます。

確認することと、パース依頼で伝えることを対応させて整理すると、次の表のようになります。

確認すること 根拠(資料) パース依頼で伝えること
基準が適用される建物か バリアフリー法第14条、同法施行令第5条・第9条 設計者に確認した結果(基準に沿った設計か)
入口の床の高さと勾配 同法施行令第19条第2項第七号ニ 床の高さ、スロープの勾配・長さ(断面図・立面図)
スロープの幅と踊場 同法施行令第19条第2項第七号 スロープと踊場の位置・範囲(平面図)
手すり・表面・識別 同法施行令第17条 手すりの有無と位置、仕上げ材と色
出入口の幅・戸の前後の高さ 同法施行令第19条第2項第一号・第二号 戸の前後の床の高さ、足元の見切り材の表現

入口の床の高さと勾配を先に決め、戸の前後の高さまで図面で示すのが、食い違いを防ぐ近道です。

「フラットに見せて」という一言は、床の高さの寸法を正とするか、スロープの長さと位置をどうするか、手すりを描くか、戸の前後をそろえるか、の4つに分けて伝えると、制作側に伝わりやすい指示になります。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。

この記事のポイント

  • 入口の基準が義務になるかは、用途と規模に加えて、条例による追加・引き下げ・上乗せがあるかを設計者に確認します。
  • スロープの水平距離は床の高さで決まり、12分の1なら高さの12倍です。
  • 幅・踊場・手すり・色の差は、図面で位置を示して描き漏れを防ぎます。
  • 戸の前後の床の高さをそろえて描くかを、依頼文で伝えます。

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