たとえば、こんな食い違いがあり得ます。
「隣の家との間は、ぎりぎりまで詰めて描いてください。」
「でも、境界線から建物までは、図面だと数十センチ離れているんだよな。」
※アイキャッチ画像は解説用のイメージで、実際の制作事例ではありません。
外観パースで隣地との間のすき間を、どのくらいの幅で描くかは、建物の「余裕」の見え方を左右します。一方、実際の建物には、敷地の境界線からどれだけ離すか(あるいは離さなくてよいか)を定めた規定がいくつかあり、土地の条件によって当てはまるものが違います。
どの規定が当てはまるかは、設計者が確認し、必要に応じて自治体や専門家に確かめる領域です。パースの依頼文に「境界からの距離」が書かれていないと、図面とは違う間隔で描かれ、あとで差し替えになることがあります。
この記事では、隣地境界線からの距離をめぐる5つのポイントを、e-Gov法令検索で確認できる民法第234条・第236条、建築基準法第54条・第63条・第68条の2と、同法施行令第135条の22をもとに整理し、あわせてパース依頼で押さえたい点を書きます。判断そのものは設計者と確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。
なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者は「ここからは筆者の見立てです」と添えます。条文は要旨を言い換えており、実際の規定は必ず原文でご確認ください。前面道路側の距離は、別の記事で扱う論点なので、この記事は隣地との境界に絞っています。
① 民法234条は、境界線から50センチメートル以上が原則
民法第234条第1項は、建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならないと定めています。第2項は、これに違反して建築しようとする者があるときは、隣地の所有者は建築を中止させ、または変更させることができるとし、ただし、建築に着手した時から1年を経過し、またはその建物が完成した後は、損害賠償の請求のみをすることができるとしています。
ここからは筆者の見立てです。外観パースで隣地側の外壁を描くときは、境界線から外壁までの距離を、図面の寸法のとおりに描くのが、食い違いを減らしやすい進め方です。「すき間は適当に詰めて」と頼むと、図面と違う間隔を、完成予想として見せてしまうおそれがあります。
② 異なる慣習があれば、慣習に従う(民法236条)
民法第236条は、第234条・第235条と異なる慣習があるときは、その慣習に従うと定めています。
ここからは筆者の見立てです。50センチメートルという数字は、すべての土地で例外なく同じとは限りません。どの地域にどんな慣習があるかは、パース制作側で調べるのは難しいものです。依頼文には、「50センチメートル」のような一般的な数字ではなく、設計者が図面で確定した実際の距離を書いてもらうのが確実です。
注意したいこと
「民法は50センチメートル」という覚え方だけで距離を決めて、パースに描き込まないでください。次に挙げる③④の規定が当てはまる土地では、別の距離になることがあります。
③ 防火地域・準防火地域では、外壁を境界線に接して設けられる場合がある
建築基準法第63条は、防火地域または準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができると定めています。民法の原則と、見た目の結果がまったく違う規定です。
ここからは筆者の見立てです。この規定が使える土地では、隣の建物との間にすき間がない外観が、設計として成り立ちます。逆に、この規定が使えない土地で「隣とくっつけて」と頼むと、図面と食い違います。民法との関係をどう読むかは、設計者や専門家にご確認ください。防火地域・準防火地域の外観パースで気をつける点は、別記事「防火地域・準防火地域の外観パース」にもまとめています。
④ 低層住居専用地域等では、外壁の後退距離が定められることがある
建築基準法第54条は、第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域または田園住居地域内では、建築物の外壁またはこれに代わる柱の面から敷地境界線までの距離(外壁の後退距離)は、その地域に関する都市計画で外壁の後退距離の限度が定められた場合には、政令で定める場合を除き、その限度以上でなければならないと定めています。限度は、1.5メートルまたは1メートルとされています。
政令で定める場合の例として、施行令第135条の22は、限度に満たない距離にある建築物または建築物の部分が、外壁またはこれに代わる柱の中心線の長さの合計が3メートル以下であるか、物置などで軒の高さが2.3メートル以下かつ床面積の合計が5平方メートル以内であるかのいずれかに当たる場合を挙げています。
ここからは筆者の見立てです。この規定は「その地域の都市計画に限度が定められている場合」だけ働きます。低層住居専用地域だからといって、一律に1.5メートルや1メートルになるわけではありません。外観パースで境界側の距離を描くときは、設計者が確定した実際の距離を、そのまま使います。
⑤ 地区計画や条例で、さらに制限がかかることもある
建築基準法第68条の2は、市町村が、地区計画等の区域(地区整備計画等が定められている区域に限る)内で、建築物の敷地、構造、建築設備または用途に関する事項で、地区計画等の内容として定められたものを、条例で制限として定めることができるとしています。
ここからは筆者の見立てです。この条文だけで、境界からの距離が必ず制限されるとは言えません。ただ、土地によっては、民法や建築基準法のほかに、地区計画や条例の制限を確認する必要が出てきます。パース依頼の前に、設計者へ「境界側の距離は確定していますか」と確認しておくと、描き直しを減らせます。
ここからは筆者の見立てです。依頼文に書く情報は、(1)境界線から外壁の面までの距離、(2)隣地側の建物の有無と、あるならその距離、(3)距離の根拠となる図面の名前、の3点です。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。
| 規定 | 当てはまる土地 | パース依頼で伝えること |
|---|---|---|
| 民法234条・236条 | 原則(慣習があればそれに従う) | 境界線から外壁までの実際の距離 |
| 建築基準法63条 | 防火地域・準防火地域で外壁が耐火構造の建築物 | 境界に接する外壁か、離れているか |
| 建築基準法54条・施行令135条の22 | 低層住居専用地域等で、都市計画に限度が定められた場合 | 外壁(または柱)の面から境界線までの距離 |
| 建築基準法68条の2 | 地区計画等の区域で条例が定められた場合 | 設計者に確認した制限の有無 |
結論として、距離の数字は規定から推測せず、設計者が確定した値を依頼文に書くのが確実です。
逆に言えば
境界側の距離が図面で確定していれば、パースの描き直しを減らしやすくなります。「いくつかの規定のどれが当てはまるか」は設計者に任せ、依頼側は確定した距離と図面名を渡すだけで足ります。
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