たとえば、こんな食い違いがあり得ます。
「天井を高く見せて、開放感のある内観パースにしてください。」
「でも、この部屋は梁が出ていて、天井の高さが場所によって違うんだよな。」
内観パースでは、天井の高さが部屋の印象を大きく左右します。天井が高く見えれば開放的に、低く見えれば落ち着いた空間に見えます。一方で、居室の天井の高さには、建築基準法施行令に下限が定められています。
「天井を高く」と書くだけでは、制作側は、図面どおりの高さで描くのか、見せ方として高く感じさせるのかを判断できません。判断できないまま進めると、図面の天井高とパースの印象がずれてしまうことがあります。
この記事では、内観パースで天井の高さを描くときに確認したい5つのポイントを、e-Gov法令検索の建築基準法施行令第21条と、パース依頼で押さえたい点とを合わせて整理します。法規への適合の判断は設計者や確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。
なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者には「筆者の見立て」と添えます。
① 居室の天井高には「2.1メートル以上」という下限がある
建築基準法施行令第21条第1項は、「居室の天井の高さは、二・一メートル以上でなければならない」と定めています。「居室」は、建築基準法第2条第四号で「居住、執務、作業、集会、娯楽その他これらに類する目的のために継続的に使用する室」と定義されています。廊下や収納などは、一般には継続的に使う室ではないため居室に当たらないと扱われることが多いと考えられます(筆者の見立て)。個別の部屋が居室に当たるかどうかは、実際の使い方をもとに、設計者や確認申請先が判断します。
ここからは筆者の見立てです。図面の天井高を低めに設定している部屋のパースを頼むときは、その天井高が2.1メートル以上になっているかを、依頼側で確認しておくとよいでしょう。パースの制作側は、図面にない天井高を勝手に決めることはできません。パースが図面と違う高さで描かれてしまうと、実際の空間の印象を誤って伝える原因になります。
逆に言えば、天井高の数値は図面を正とし、パースでは見せ方(カメラの高さ・画角)で印象を調整する、という整理がしやすくなります。カメラ位置の考え方は、別記事「建築パースのカメラ位置と構図の決め方5つの基準」にまとめています。
② 一室に高さの違う部分があれば、「平均の高さ」で見る
同じ条の第2項は、天井の高さについて、「室の床面から測り、一室で天井の高さの異なる部分がある場合においては、その平均の高さによるものとする」と定めています。勾配天井、下がり天井、部分的に高い天井など、一室の中で天井の高さが変わる部屋では、場所ごとの高さではなく、平均の高さで見るということです。
考え方を示すために、床面積10㎡の部屋を例にします。条文は「平均の高さ」としか書いていないため、平均の求め方までは示していません。次の図は、面積で重みづけして平均を出した一例で、数値も仮のものです。勾配天井や梁の扱いは、特定行政庁や確認検査機関の運用で異なる場合があるため、実際の算定は設計者や確認申請先に確認してください。

ここからは筆者の見立てです。パースで天井の一部を高く(または低く)描くと、見た目の印象が変わるだけでなく、図面の天井の高さ構成とずれる原因になります。勾配天井や下がり天井がある部屋では、その位置と高さを、図面で示しておくと確実です。
③ 「床面から測る」のだから、床のレベルも確認する
条文は、天井の高さを「室の床面から測り」と定めています。つまり、天井高は、天井のレベルだけでなく、その部屋の床のレベルとの関係で決まります。
ここからは筆者の見立てです。内観パースで、床に段差がある部屋や、隣の部屋と床の高さが違う部屋を描く場合、天井の高さがどの床から測ったものなのかが分からないと、制作側が天井を描く高さを決められません。図面で、床のレベル(段差の位置と高さ)と天井のレベルがあわせて分かるようにしておくと、食い違いを減らしやすくなります。
床の仕上げや素材の選び方は、別記事「建築パースの素材・色の決め方5つの基準」も参考にしてください。
④ 広角にすると天井は高く見えやすい。見せ方と図面の高さは分けて考える
ここは筆者の見立てです。パースのカメラの画角を広くすると、部屋全体が広く、天井が高く見えやすくなります。逆に、画角を狭くして近づくと、天井が低く、圧迫感のある印象になりやすいと考えます。
見た目の印象をつくる要素としては、カメラの高さと画角、そして家具や建具など、人が大きさを判断する手がかりの描き方が挙げられます。天井の「実際の高さ」を描き替えなくても、印象が変わることがあります。なお、パースは完成後のイメージを伝える絵であり、広角で描いた場合などは、実際の空間の印象と異なる見え方になることがあります。
そのため、「天井を高く見せて」という依頼は、次のように分けて伝えるとスムーズです。
- 天井の実際の高さは図面どおりにする(数値は図面を正とする)
- 見せ方として、広めの画角で開放的に見せたいのか、落ち着いた印象にしたいのか
- カメラの高さ(立ったときの目線か、座ったときの目線か)
家具や小物の選び方は、別記事「内観パースの什器・添景の決め方5つの基準」で扱っています。
⑤ 判断は設計者と確認申請先。依頼側は図面の情報を揃える
居室の天井高が基準を満たしているかどうか、平均の高さをどう算定するかは、設計者が検討し、確認申請などで確認される領域です。パースの制作側が「この天井高は基準を満たしているか」を判断することはできません。
ここからは筆者の見立てです。依頼側にできるのは、設計で確定した天井の情報を、依頼文と図面で伝えることです。次の表のとおり、確認したいことと、パース依頼で伝えることを対応させて整理しておくと、制作側が迷いません。
| 確認すること | 根拠となる資料 | パース依頼で伝えること |
|---|---|---|
| 居室の天井高の下限 | 建築基準法施行令第21条第1項 | 図面の天井高を正とするか |
| 天井高が場所で違う場合の扱い | 同条第2項(平均の高さ) | 勾配・下がり天井・梁の位置と高さ(梁の扱いは運用による) |
| 測る基準 | 同条第2項(室の床面から) | 床の段差の位置と高さ |
| 見せ方の印象 | 筆者の見立て | カメラの高さ・画角の希望 |
表のとおり、天井まわりの食い違いは、天井の高さ・高さの違う部分の位置・床のレベル・カメラの希望の4点を伝えることで、減らしやすくなります。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。
「天井を高く見せて」という一言は、図面の天井高を正とするか、高さの違う部分の位置をどう示すか、床の段差はどうなっているか、カメラの高さと画角をどうするかの4つに分けて初めて、制作側に伝わる指示になります。


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