【先に現況を固める】リノベーションのビフォーアフターパースを依頼する前に確認したい5つのこと|「今のままで」が伝わらない理由

「キッチンの壁と床は今のままでお願いします。」
「リビングは広く明るくなるイメージで、あとはお任せします。」

リノベーションや改修のビフォーアフターパースでは、こうした一言の指示が出発点になることがあります。ところが「今のまま」は、写っていない部分、図面と実際が違う部分、工事の途中で変わるかもしれない部分を含んでいて、依頼する側と描く側で中身が一致しているとは限りません。新築と違い、改修では「元になる現況」を先に固めておかないと、アフターの絵だけでなくビフォーの絵までずれてしまいます。

この記事では、ビフォーアフターパースを依頼する前に確認したい5つのことを、国土交通省の資料をもとに整理します。法規への適合や工事内容の判断は設計者・確認申請先・自治体の領域で、この記事は法的な助言ではなく、パース依頼時の確認点をまとめたものです。

① 現況写真は「枚数」より「どこが写っているか」

現況写真は、多ければ安心というものではありません。国土交通省の既存住宅状況調査方法基準は、調査について、少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、対象部位のうち少なくとも移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分について行うものと定めています。ここで示されているのは最低限の範囲で、家具の陰の部分を含めて調べることを妨げるものではありません。

ここからは筆者の見立てですが、パースの依頼でも、写真に写らない部分は描く側にも分からないはずです。家具の裏の壁、天井の隅、窓の外の景色、床と壁の取り合いなどが該当します。部屋ごとに、入口から奥を見た写真と、その反対側を見た写真の最低2方向を撮っておく。残したい部分、変えたい部分は、写真の上に印を付けて渡す。これだけで食い違いを減らしやすくなります。逆に言えば、写真に写っていない部分は「分からないので聞く」のが正しい流れです。

なお、国土交通省の手引きによると、建物状況調査(インスペクション)は、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分を目視や計測、非破壊検査で調べるもので、「全ての瑕疵がないことを約束するものではありません」と注記されています。ここからは筆者の見立てですが、調査の対象は構造と雨水の浸入を防ぐ部分なので、調査を受けた建物でも、内装の仕上げや寸法がパースに必要な精度で分かるとは限りません。

② 図面は「どの図面か」で信頼度が変わる

「図面はあります」と言っても、種類によって位置づけが違います。国土交通省の「既存建築物の現況調査ガイドライン」は、増築、改築、移転、大規模の修繕または大規模の模様替をしようとする際に、建築士などが建築基準法令への適合状況を調べる手順を示した資料です。パース依頼のための資料ではありませんが、図面の扱いが次のように整理されています。

手元の図面 ガイドラインの整理(要旨) パースでの確認点
確認申請書の副本の図面 確認済証の交付を受けた計画の図面。図面と現地を照合して調べる 現地と照合済みか、工事後に変更していないか
竣工図面など 図面上で確認し、確認できた部分について現地と照合する 竣工後の改修・間取り変更の有無
図面がない 現地を実測・調査して現況の図面を作成する 実測した人と範囲、寸法の精度
検査済証が見当たらない 特定行政庁への処分等概要書の閲覧請求や台帳記載事項証明書の発行で確認する方法がある 入手の可否は設計者・行政に確認

図面は「あるかどうか」より「現況と照合されているか」で使い方を整理すると考えやすいため、図面の種類と作成時期を依頼時に伝えておくと確認が進みます。

※第1・2列はガイドラインの要旨、第3列「パースでの確認点」は筆者の整理で、出典に書かれた内容ではありません。表は法規への適合を判断するものではなく、個別の建物への適用は設計者・行政に確認してください。

ガイドラインは、図面がない場合の適合状況の調査について、現地を実測・調査して現況の図面を作成すると整理しています。これは建築士などによる調査の手順で、パースの依頼条件を定めたものではありません。ここからは筆者の助言ですが、パースの依頼では、実測図が必要かどうかを先に設計者へ相談しておくのが確実です。図面が揃っていなくても依頼はできますが、現況の寸法を確認できていない部分は「想定」として扱い、その旨を依頼時に伝えてください。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。

③ 「残す」と「変える」は部位ごとに言葉にする

「今のまま」「全体をきれいに」といった指示は、部位に分けると意味が揺れます。壁の仕上げを張り替えるのか、下地ごと作り直すのか。床は残して表面だけ変えるのか。窓や建具は交換するのか。パースでは、この違いが絵の上で見え方に出ます。

そこで、依頼時には「床」「壁」「天井」「建具」「設備」「外観」のように部位に分け、それぞれ「残す」「変える」「未定」のどれかを書いておきます。未定の部位は、設計者の確定を待つか、案を複数描くかをパース側と相談してください。

現況の資料現況写真(方向を変えて撮影)図面または実測図計画の資料設計者が確定した図面仕上げ・建具の指定照合部位ごとに3つに分けて依頼する残す部分現況どおりに描く写真・図面で裏付け変える部分計画図に従って描く仕上げ・建具を指定未定の部分設計者の確定を待つまたは案を分けて描く
概念図です。実際の工事内容や法規への適合は設計者・行政の判断によります。「未定」の部分を最初から書き出しておくと、手戻りの原因を先に把握できます。

「残す」と決めた部分が、工事内容によっては変わる場合もあります。国土交通省の資料では、既存不適格の建築物について増築、改築、移転または大規模修繕・模様替を行う場合には、これを機会に適用除外されていた規定への適合が求められる(遡及適用)と説明されています。大規模の修繕・模様替は、主要構造部の一種以上について行う過半の修繕・模様替とされています。どこまでが対象になるかは建物ごとに異なり、判断するのは設計者と確認申請先です。「残すつもりの部分」が計画の進行で変わる可能性があるときは、設計の確定を待つか、「想定」と明記して渡すかを、設計者と相談して決めてください。

④ 現況と計画のずれが出やすいのは「見えない部分」

ずれが起きやすいのは、天井裏、床下、壁の内側といった、目で見て確認できない部分です。現況調査ガイドラインでも、隠蔽部は天井・床下点検口や非居室など居住に支障のない室等で、原状復旧可能な範囲で部分的に切り欠いて調査するとされています。調査できなかった規定は「不明」として扱われます。

さらに、同じガイドラインには、調査結果が「不明」だった規定について現行規定に適合させる改修を計画した場合でも、工事施工中に当該箇所を確認し、適合が確認できれば改修を行わないこととできる旨が示されています。ここまでがガイドラインに書かれている内容です。ここからは筆者の見立てですが、計画の内容が現況の確認結果によって変わる場合、梁や設備の位置、天井の高さ、壁の厚みなどが図面と現場で違っていると、パースの寸法感に影響し得ます。

対策は2つです。ひとつは、パースの依頼時に「現況で未確認の部分」を設計者から聞いて伝えること。もうひとつは、そうした部分が絵の見せ場に入る場合、確認が済むまで描画を待つか、「確認前の想定」である旨を図中に添えて渡すかを決めることです。関係者に見せる資料なら、後者は誤解を防ぐ手当てになります。

⑤ ビフォーとアフターは「同じ位置・同じ条件」で揃える

ビフォーアフターは、並べて見比べるものです。ビフォーが広角で、アフターが少し寄った構図だと、広くなったように見えて実は同じ、あるいはその逆という誤解が起きます。同じ位置・同じ高さ・同じ画角で描くのが基本で、ビフォーの現況写真を撮る段階から、アフターで見せたいアングルを決めておくと揃えやすくなります。カメラの考え方は、別記事「建築パースのカメラ位置と構図の決め方5つの基準」で紹介しています。

もう一つ、素材や色の見え方も揃える必要があります。現況の床や壁は経年で色が変わっていることがあり、サンプルの色と同じ見え方にはなりません。ビフォーは現況写真の色味に合わせ、アフターは仕上げサンプルの型番や色番号で指定する、といった整理が現実的です。素材・色の指定の考え方は、別記事「建築パースの素材・色の決め方5つの基準」にまとめています。

依頼時には、次の4点を伝えておくとスムーズです。

  • 現況写真(部屋ごとに2方向以上)と、手元にある図面の種類・作成時期(確認申請書の副本、竣工図、実測図など)
  • 部位ごとの「残す」「変える」「未定」の区分と、変える部位の仕上げ・建具の指定
  • 現況で未確認の部分(天井裏・床下・壁の内側など)と、確認予定の有無
  • ビフォーアフターで見せたいアングルと、揃えたい条件

改修では、現況を固めることがパースの出来を左右します。現況写真と図面を「照合済みの状態」にしてから依頼することが、手戻りを減らす近道です。

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