たとえば、こんなやり取りがあり得ます。
「窓は大きく、サッシは細く、すっきり見せてください。」
「でも、この敷地は防火地域だったはず。窓まわりの仕様は図面どおりでよいのだろうか。」
※アイキャッチ画像は解説用のイメージで、実際の制作事例ではありません。
外観パースでは、窓やサッシ、外壁の見え方が建物の印象を大きく左右します。一方、防火地域・準防火地域にある建築物には、外壁の開口部や屋根などについて、建築基準法に独自の規定があります。仕様は設計側が決めるもので、パースの制作側が決める立場にはありません。それでも、依頼文に何も書かないと、図面と違う見た目で描かれる食い違いが起こり得ます。
この記事では、防火地域・準防火地域の敷地で外観パースを依頼するときに確認したい5つのポイントを、e-Gov法令検索の建築基準法(第2条第六号、第61〜65条)をもとに整理します。法規への適合の判断は設計者と確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。
なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者には「筆者の見立て」と添えます。条文は要旨を言い換えており、実際の規定は必ず原文でご確認ください。
① まず、敷地が防火地域・準防火地域かを図面や資料で確認する
建築基準法第61条は、防火地域または準防火地域内にある建築物について、外壁の開口部の防火設備や、壁・柱・床などの構造について規定しています。つまり、これらの規定が関わるのは、敷地が防火地域または準防火地域にあるときです。
敷地がどの地域に当たるかは、都市計画で定められており、自治体の都市計画図などで確認できます。パースの制作側は、これを調べて判断する立場ではありません。
なお、一つの建築物が防火地域・準防火地域と指定のない区域にまたがる場合や、防火地域と準防火地域にまたがる場合の扱いは、第65条に定めがあります。
ここからは筆者の見立てです。依頼の時点で「防火地域」「準防火地域」「指定なし」のいずれかを、設計側から一言伝えてもらうだけで、窓や外壁の仕様の確認がぐっと進めやすくなります。分からない場合は、「未確認」と書いておくだけでも、制作側が後から質問するきっかけになります。地域にまたがる場合は設計側に確認してください。
② 外壁の開口部は、「延焼のおそれのある部分」かどうかで扱いが変わる
第61条は、防火地域・準防火地域内の建築物では、外壁の開口部で「延焼のおそれのある部分」に、防火戸その他の政令で定める防火設備を設けることを求めています。
「延焼のおそれのある部分」は、第2条第六号で定義されています。隣地境界線、道路中心線、または同一敷地内の2以上の建築物の外壁間の中心線から、1階では3メートル以下、2階以上では5メートル以下の距離にある建築物の部分を指します。ただし、防火上有効な公園・広場・川などの空地や水面、耐火構造の壁などに面する部分(イ)や、外壁面と隣地境界線等との角度に応じて国土交通大臣が定める部分(ロ)は除かれます。なお、同一敷地内の建築物については、延べ面積の合計が500平方メートル以内のものを一の建築物とみなす、という括弧書きが原文にあります。次の図は、考え方を示すための仮の数値です。

ここからは筆者の見立てです。隣地境界線や道路中心線に近い面の窓は、防火設備として扱われる可能性があります。その場合、サッシの見付けやガラスの種類など、窓まわりの見え方が、防火設備ではない窓と違ってくることがあります。どの窓がそれに当たるかは設計で確定している情報なので、依頼側が図面に示し、パースでは図面どおりに描くのが、無理のない整理です。
③ 外壁・屋根の仕上げは、仕上表を正とする
第61条は、壁・柱・床などの部分と外壁開口部の防火設備について、地域の区分と建築物の規模に応じた政令の技術的基準に適合し、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの、または認定を受けたものとすることを求めています。第62条は、建築物の構造や用途の区分に応じて、屋根について、火の粉による火災の発生を防ぐために必要な性能について、政令で定める技術的基準に適合するもので、国土交通大臣が定めた構造方法を用いるもの、または認定を受けたものとすることを求めています。
どの外壁材・屋根材でこれらを満たすかは、設計者が選び、確認申請などで確認される領域です。パースの制作側が、素材から判断するものではありません。
ここからは筆者の見立てです。「木の質感を見せたい」「屋根を薄く軽く見せたい」といった希望があっても、防火地域・準防火地域では、実際に使える仕様の範囲が限られることがあります。パースの見た目だけを先に決めてしまうと、後で図面や仕上表と食い違うおそれがあります。外壁・屋根・開口部の仕上げは、仕上表や図面を正として描き、変えたいときは設計側で仕様が確定してから伝える、という順序が安全です。素材と色の指定の仕方は、別記事「建築パースの素材・色の決め方5つの基準」にまとめています。
④ 防火地域内の看板・広告塔・装飾塔は、条件によって不燃材料
第64条は、防火地域内にある看板、広告塔、装飾塔その他これらに類する工作物で、建築物の屋上に設けるもの、または高さが3メートルを超えるものについて、その主要な部分を不燃材料で造るか、覆うことを求めています。
第64条の条文は「防火地域内にある」と書かれており、準防火地域は対象として挙げられていません。看板がどの条件に当たるかは、設計者と確認申請先が判断する領域です。
ここからは筆者の見立てです。屋上の看板や、高さのあるポール看板を描くパースでは、素材の指定が見た目に関わります。看板まわりの一般的な確認点(条例・景観規制など)は、別記事「店舗の外観パースに看板・サインを入れるときの確認点5つ」にまとめています(防火上の扱いは本記事の範囲です)。
⑤ 隣地側の見え方は、設計者が決めた外壁の位置を正とする
第63条は、防火地域・準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができると定めています。つまり、条件を満たす場合には、外壁を隣地境界線に寄せた計画も、規定の上ではあり得ます。なお、民法など他の法令との関係は、この記事では扱いません。実際にどう計画できるかは設計者が判断します。
ここからは筆者の見立てです。隣地境界ぎりぎりに外壁がある計画では、隣地側の外壁面や、境界まわりの見え方が、パースの印象に影響します。外壁の位置や、隣地との距離は、図面で確定している情報を正として描き、パース上で距離を調整しないようにします。
5つのポイントを、確認することと、パース依頼で伝えることに対応させると、次の表のとおりです。
| 確認すること | 根拠(資料) | パース依頼で伝えること |
|---|---|---|
| 敷地の地域(防火・準防火・指定なし) | 自治体の都市計画図など(地域の指定は都市計画による) | 地域の区分(未確認ならその旨) |
| 延焼のおそれのある部分の窓・扉 | 建築基準法第2条第六号、第61条 | 該当する開口部の図面上の位置と仕様 |
| 外壁・屋根の仕上げ | 建築基準法第61条、第62条 | 仕上表どおりに描くか |
| 屋上・高さのある看板等の素材 | 建築基準法第64条 | 看板等の素材と高さ |
| 隣地境界に寄せた外壁の位置 | 建築基準法第63条 | 外壁と隣地境界の距離(図面を正とするか) |
依頼文に書く情報は、地域の区分、窓・扉の仕様、外壁・屋根の仕上げ、看板等の素材、外壁と隣地境界の距離の5点で、図面で示すと防火まわりの食い違いを減らしやすくなります。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。
「窓をすっきり見せて」という一言は、窓の位置と仕様は図面どおりか、外壁・屋根の仕上げは仕上表どおりか、見せ方はカメラの位置や画角で調整してよいか、の3つに分けて伝えると、制作側に伝わりやすい指示になります。
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