たとえば、こんな食い違いがあり得ます。
「バルコニーの手すりは、できるだけ低く、軽やかに見せてください。」
「でも、図面の手すりは、そこまで低くないんだよな。」
外観パースでは、バルコニーの手すりが、建物の印象を大きく左右します。手すりが低く細ければ軽やかに、高く厚ければ重厚に見える傾向があります。ところが、一定の建築物では、2階以上のバルコニーや屋上広場の周囲に設ける手すりについて、建築基準法施行令に高さの下限が定められています。
「軽やかに見せて」と書くだけでは、制作側は、図面どおりの手すりで描くのか、見せ方として低く細く描いてよいのかを判断できません。判断できないまま進めると、実際のバルコニーとパースの手すりで、高さや形が違ってしまうことがあります。
この記事では、バルコニーや屋上を含む外観パースで手すりを描くときに確認したい5つのポイントを、e-Gov法令検索の建築基準法施行令第126条と、パース依頼で押さえたい点とを合わせて整理します。法規への適合の判断は設計者や確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。
なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者には「筆者の見立て」と添えます。
① 対象となる建築物では、2階以上のバルコニーや屋上広場の周囲に手すり壁・さく・金網が必要
建築基準法施行令第126条第1項は、「屋上広場又は二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが一・一メートル以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない」と定めています。
つまり、2階以上のバルコニーや屋上広場には、周囲に手すり壁・さく・金網のいずれかを、1.1メートル以上の高さで設ける、という規定です。なお、この条文を含む施行令第5章第2節は、第117条により、特殊建築物(法別表第一(い)欄(一)〜(四)項)、階数が3以上の建築物、採光に有効な部分の面積の合計が居室の床面積の20分の1以上となる窓その他の開口部を有しない居室(第116条の2第1項第1号)を有する階、延べ面積が1,000平方メートルを超える建築物に限って適用されます。対象となるかどうかも、設計者が判断する領域です。条文が挙げているのは「屋上広場」と「二階以上の階にあるバルコニーその他これに類するもの」で、1階の地面に接した庭やテラスは、文言上は挙げられていません。ただし、手すりが要るかどうか、どの部分がバルコニーやこれに類するものに当たるかは、設計の内容によって決まり、設計者が判断し、確認申請先で確認される領域です。
ここからは筆者の見立てです。外観パースで2階以上のバルコニーがある面を描くときは、図面の手すりの高さと種類を、依頼側で確認しておくとよいでしょう。パースの制作側は、図面にない手すりの高さや形を勝手に決めるわけにはいきません。
② 手すりを低く・省略して描くと、実際の建物と食い違う
条文は、手すり壁・さく・金網の高さを「安全上必要な高さが一・一メートル以上」と定めています。次の図は、考え方を示すための仮の数値です。

ここからは筆者の見立てです。手すりは、高さや厚みの小さな違いが、建物全体の軽さ・重さの印象に影響する部位です。手すりを低く、または細く描くと、実物より軽く見えやすくなります。逆に、図面にある手すりを省略して描くと、バルコニーが開放的に見えすぎます。図面の高さ・形・素材を正として、見せ方はカメラの位置や画角で調整するのが、無理のない整理です。
カメラ位置の考え方は、別記事「建築パースのカメラ位置と構図の決め方5つの基準」にまとめています。
③ 手すり壁・さく・金網で、見え方が大きく違う
条文は、「手すり壁、さく又は金網」の3種類を挙げています。どれを採用するかは設計者が決め、外観の見え方は大きく変わります。
ここからは筆者の見立てです。壁状の手すり壁は、バルコニーの内側が隠れやすく、さくや金網は、内側が見えやすい傾向があります。そのため、パースで「手すりをすっきり見せて」と頼まれても、手すり壁の場合は面として描き、さくや金網の場合は、透けて見える内側の様子(物干し、植栽、室外機など)も描くかどうかを決める必要があります。
依頼文では、次のことを図面で示すと、食い違いを減らしやすくなります。
- 手すりの種類(壁状か、さくか、金網か)と、素材・色
- 手すりが透ける場合、バルコニーの内側に何を置いて描くか(何も置かないか、植栽・家具・室外機などを置くか。置く場合は位置も)
外構や植栽の描き方は、別記事「外観パースの外構・植栽を自然に見せる5つのポイント」も参考にしてください。
④ 屋上広場も、周囲の手すりが必要な場所のひとつ
同じ条文の第1項は、2階以上のバルコニーに加えて、「屋上広場」の周囲にも、1.1メートル以上の手すり壁・さく・金網を設けることを定めています。第2項は、建築物の5階以上の階を百貨店の売場の用途に供する場合に、避難の用に供することができる屋上広場を設けなければならないと定めていますが、ここでは第1項に絞ります。
ここからは筆者の見立てです。屋上庭園やテラスを描く外観パースでは、屋上の縁に手すりがあることを、図面で確認しておくと安心です。屋上の手すりを描かずに「開放的な屋上」として見せると、実際の建物と食い違う可能性があります。
屋上でも、手すりの内側に設備機器が見える場合は、③と同様に、描くかどうかを依頼文に書いておきます。
⑤ 判断は設計者と確認申請先。依頼側は図面の情報を揃える
手すりが基準を満たしているか、どの部分がバルコニーやこれに類するものに当たるかは、設計者が検討し、確認申請などで確認される領域です。パースの制作側は、これらを判断する立場ではありません。
ここからは筆者の見立てです。依頼側にできるのは、設計で確定した手すりの情報を、図面と依頼文で伝えることです。次の表のように、確認することと、パース依頼で伝えることを対応させて整理しておくと、制作側が迷いません。
| 確認すること | 根拠(資料) | パース依頼で伝えること |
|---|---|---|
| 手すりが必要な場所と高さ(1.1m以上) | 施行令第126条第1項(適用範囲は第117条) | 図面の手すりの高さを正とするか |
| 手すり壁・さく・金網の別 | 施行令第126条第1項 | 手すりの種類・素材・色 |
| 透ける場合の内側の見え方 | 条文なし(筆者の見立て) | 内側に置くもの(室外機・植栽など) |
| 屋上広場の周囲 | 施行令第126条第1項 | 屋上の縁の手すりの有無と形 |
5つのポイントのうち、依頼文に書く情報は、手すりの高さ、種類・素材、透ける場合の内側、屋上の縁の4点です(⑤は判断主体の確認です)。これらを図面で示すと、手すりまわりの食い違いを減らしやすくなります。必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。
「手すりを軽やかに見せて」という一言は、図面の手すりの高さを正とするか、手すりの種類と素材をどうするか、透ける場合の内側に何を置くか、屋上の縁をどうするかの4つに分けて伝えると、制作側に伝わりやすい指示になります。


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