【段階で精度を変える】設計の進み具合に合わせた建築パースの頼み方5つのポイント|「実施設計と同じ精度で」が必要とは限らない理由

たとえば、次のような疑問が出ます。

「基本設計の途中ですが、先にパースを作れますか。」
「実施設計と同じ精度で、とお願いしたほうがいいのでしょうか。」

設計が進むにつれて、図面に書き込まれる内容は変わっていきます。基本設計の段階では決まっていないことが、実施設計の段階では決まっている。ところが、パースを依頼するときは、どの段階の図面なのかが伝わらないまま「できるだけ正確に」とだけ頼んでしまうことがあります。ここからは筆者の見立てですが、そうなると、まだ決まっていない部分まで描かれて後から食い違ったり、逆に仕上げまで確認したいのに大枠の精度で止まってしまったりする原因になりやすいと考えられます。

この記事では、設計の段階に合わせてパースに求める精度を変えるための5つのポイントを、国土交通省の告示をもとに整理します。法規への適合や設計内容の判断は設計者・確認申請先・自治体の領域で、この記事は法的な助言ではなく、パース依頼時の確認点をまとめたものです。

① 基本設計は、図書の多くが「概要」止まりで大枠の確認が中心になる

建築士事務所が設計の報酬を請求するときの基準として、建築士法第25条に基づく令和6年国土交通省告示第8号があります。前回の基準は平成31年告示第98号で、約5年ぶりに見直されたものです。この告示の別添一に、基本設計や実施設計の標準業務の内容と成果図書が示されています。標準業務は、設計に必要な情報が提示されている場合に、一般的な設計受託契約に基づいて行う業務という位置づけです。

告示別添一は、基本設計を、建築主から提示された要求などを設計条件として整理したうえで、建築物の配置計画、平面と空間の構成、各部の寸法や面積、機能・性能、主な使用材料や設備機器の種別と品質、建築物の内外の意匠などを検討し、成果図書を作成する業務としています。戸建木造住宅以外の建築物の「総合」の成果図書には、計画説明書、仕様概要書、仕上概要表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図、工事費概算書が挙げられています。なお、備考には「建築物の計画に応じ、作成されない図書がある場合がある」とあり、図書の顔ぶれは案件ごとに違いうるものです。

ここからは筆者の見立てですが、基本設計の図書には「仕様概要書」「仕上概要表」のように「概要」と名の付くものが並んでいます。材料は種別や品質の概要まで、細かな納まりや個別の仕様は次の段階に回る、と読めます。この段階のパースは、建物の形、配置、大きさ、全体の雰囲気を確認する用途に向きます。逆に言えば、仕上げの色番号や建具の細部をこの段階のパースに期待すると、図面側にまだ答えがないことがあります。

② 実施設計では細部・仕様・材料の品質まで具体化される

実施設計について、告示別添一は、工事施工者が設計図書の内容を正確に読み取り、設計意図に合致した工事を的確に行えるように、また工事費の適正な見積りができるように、基本設計に基づいて設計意図をより詳細に具体化する業務としています。実施設計図書には、「工事施工者が施工すべき建築物及びその細部の形状、寸法、仕様並びに工事材料、設備機器等の種別及び品質」を具体的に表現するとされ、あわせて工法など施工に関する情報も示します。

戸建木造住宅以外の建築物の「総合」の成果図書は、建築物概要書、仕様書、仕上表、面積表及び求積図、敷地案内図、配置図、平面図(各階)、断面図、立面図(各面)、矩計図、展開図、天井伏図(各階)、平面詳細図、部分詳細図、建具表、工事費概算書、各種計算書の17点に、その他確認申請に必要な図書を加えたものです。基本設計より図書の種類が増え、「概要書」「概要表」が仕様書や仕上表に置き換わり、建具表のように個別の仕様を示すものが入ってきます。戸建木造住宅などには別の成果図書の列挙があり、すべての建物に同じ顔ぶれが当てはまるわけではありません。

もう一点、出典に書かれている事実として、実施設計の標準業務(別添一の実施設計、業務内容(1)(ii))には、基本設計の段階以降の状況の変化によって、建築主の要求等に変化がある場合、施設の機能、規模、予算等基本的条件に変更が生じる場合、またはすでに設定した設計条件を変更する必要がある場合には、建築主と協議する、という項目があります。この項目からは、実施設計の段階でも設計条件の見直しが起こりうると読めます。ここからは筆者の見立てですが、実施設計図書がそろった段階でも、パースに必要な情報がすべて確定しているとは限りません。確認申請や工事のための図面と、絵に描くための情報は、必要な項目が少しずつ違うからです。

③ 段階ごとに「パースに求める精度」を変える

ここまでの内容を、段階ごとに並べて整理します。第2列は告示の成果図書の要旨で、第3列はパースの依頼に引きつけた筆者の整理です。

設計の段階 告示が挙げる主な図書・業務(要旨) パースでの確認点
基本設計 計画説明書、仕様概要書、仕上概要表、配置図、平面図、断面図、立面図 など 形・配置・大きさ・全体の雰囲気が、図面と合っているか
実施設計 建築物概要書、仕様書、仕上表、矩計図、展開図、天井伏図、建具表 など(図書の種類は増え、概要書・概要表が仕様書・仕上表に置き換わる) 仕上げ・建具・材料などの細部が、仕上表・建具表や詳細図と合っているか
工事施工段階 成果図書ではなく、設計意図の質疑応答・説明や、材料・設備機器とその色・柄・形状等の選定への助言を業務として挙げる 色・柄の最終選定が残る場合、確定したサンプルと照合できるか

「実施設計と同じ精度」は仕上げや細部まで確認したいときの選択肢で、大枠の検討が目的なら、基本設計の図書の範囲で足りる場合もあります。

※第2列は令和6年国土交通省告示第8号別添一の要旨(戸建木造住宅以外の建築物の「総合」、一部省略)、第3列「パースでの確認点」は筆者の整理で、出典に書かれた内容ではありません。告示は設計者の業務と報酬の基準で、パースの依頼条件を定めたものではありません。

設計の段階とパースで確認したい中心の概念図。上段は基本設計、実施設計、工事施工段階の3つの段階が矢印でつながる。中段は告示が挙げる図書や業務の例で、基本設計は配置図・平面図、断面図・立面図、仕上概要表、実施設計は仕上表・建具表、矩計図・展開図、天井伏図、工事施工段階は設計意図の質疑応答・色・柄等の選定の助言(図書ではなく業務)。下段は筆者の整理によるパースで確認したい中心で、基本設計は形・配置・大きさ、実施設計は仕上げ・建具・材料、工事施工段階は色・柄の最終確認。
概念図です。基本設計から実施設計へ進むと、図面に示される内容は大枠から仕上げ・建具などの細部へ具体化します。工事施工段階の色・柄は、図面の内容ではなく選定への助言という業務として告示に挙げられているものです。上段の説明語句(大枠を検討する段階・細部と仕様を具体化・設計意図の伝達など)と中段の語句は筆者の言い換え、下段は筆者の整理で、案件や契約によって区切り方は異なります。

④ 未確定の部分は「確定・想定・未定」に分けて伝える

どの段階でも、図面に答えのない部分は残ります。告示にも、実施設計の段階で、基本設計の段階以降に検討された事項のうち、建築主と協議して合意しておく必要があるものを整理し、実施設計のための基本事項を確定する、という業務が示されています。これは設計者の工程の話ですが、確定までに協議の過程があり、その途中の状態があることを前提にしていると読めます。

ここからは筆者の助言です。パースの依頼では、部位ごとに次の3つに分けて伝えると、後からの食い違いを減らしやすくなります。

  • 確定:図面や仕上表で決まっている部分。図面どおりに描く。
  • 想定:まだ決まっていないが、仮の案を置く部分。「想定」と分かる形で描く。
  • 未定:案も決まっていない部分。確定を待つか、案を分けて描くかを相談する。

「想定」の部分を確定のように描いてしまうと、見る人はその色や形で決まったと受け取りかねません。逆に、すべてを「未定」にして確定を待ち続けると、パースを使いたい時期に間に合わなくなります。考え方はいくつかありますが、使う場面で必要な項目を先に決め、それ以外は「想定」として進める整理が現実的です。資料の渡し方の中で段階ごとの確度の分け方に触れた別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」とは切り口が異なり、この記事は告示が示す設計の段階の区分から整理しています。設計変更が入ったあとの影響については、別記事「建築パースの制作途中に設計変更が入ったときの影響5つのポイント」で扱っています。

⑤ 作り直さないために、「段階」と「目的」を先に伝える

ここからは筆者の見立てですが、パースを作り直すことになる原因として、図面の段階と、パースに期待する精度が合っていないことが考えられます。基本設計図書を前提に仕上げの細部まで求めれば、図面にない部分を想像で補うことになりかねません。逆に、実施設計図書がそろっているのに「大枠の確認用」とだけ伝えると、細部の確認ができないまま進むおそれがあります。

依頼時には、次の4点を伝えておくとスムーズです。

  • 現在の設計の段階(基本設計の途中か、実施設計図書がそろっているか)と、手元の図面の種類・作成日
  • パースの目的と、確認したい中心(形・配置・大きさか、仕上げ・建具・材料か、色・柄か)
  • 部位ごとの「確定」「想定」「未定」の区分と、未定の部位がいつ決まる予定か
  • 図面が更新されたときに、どの版を基準にするかと、その連絡の方法

必要な資料の全体像は、④で触れた「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。仕上がったパースへの修正指示の出し方は、「建築パースの修正指示の伝え方5つのコツ」が参考になります。

設計の進み具合に合わせて精度を決めることが、手戻りを減らす近道になりえます。どの段階の図面を使えるか、どこまでを確定として扱ってよいかは、設計者と確認したうえで依頼してください。

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