「このパースを見る限り、車いすでも余裕で通れそうですね。」
「廊下がずいぶん広く見えますが、実際もこの広さですか。」
内観パースを見た施主や関係者から、こうした感想が出ることがあります。パースは完成後の空間をリアルに見せる絵なので、通路の広さまで「そのまま」信じてしまいやすいのです。
ところが、パースは見映えのよい構図で描かれる絵であり、寸法を保証するものではありません。広く見える角度で描いた絵を「通れる根拠」にしてしまうと、完成後に「思ったより狭い」と気づくケースもあります。
この記事では、内観パースで通路や動線の寸法感を確認するときの5つのポイントを、国土交通省の「建築設計標準」の基本寸法をもとに紹介します。なお、この記事は建築物のバリアフリー基準への適合を判断するものではなく、パースの依頼と確認で整理しておきたい点をまとめたものです。適合の確認は設計者や自治体の窓口で行ってください。
① 通れるかどうかは、パースではなく図面の寸法で確認する
パースは、カメラの位置やレンズの設定によって、空間の広がり方が大きく変わります。同じ廊下でも、広角にして見下ろし気味に描けば広く見え、望遠で正面から描けば狭く見える傾向があります。そのため「絵で見て通れそうだった」は、通行できる根拠になりません。
通路の幅は、平面図や詳細図に書かれた有効幅(壁や手すりなどの内側の寸法)で確認するのが基本です。パースは、その寸法で空間がどのような印象になるかを確かめるための絵と考えると、役割がはっきりします。カメラ位置と見え方の関係は、別記事「建築パースのカメラ位置と構図の決め方5つの基準」で紹介しています。
② 車いすの基本寸法を「物差し」として知っておく
国土交通省の建築設計標準(第2部 第3章「基本寸法」)には、車いす使用者の動作に必要な寸法の考え方が示されています。なお、設計標準は法令の義務基準そのものではなく、設計の考え方と寸法の目安を示す指針です。通路や回転スペースの目安として、次の寸法が挙げられています。
| 寸法 | 意味(建築設計標準の記載・抜粋) |
|---|---|
| 80cm | 車いすで通過できる寸法 |
| 90cm | 車いすで通過しやすい寸法 |
| 120cm | 通路を車いすで通行できる寸法/通行しやすい寸法 |
| 140cm | 車いす使用者が転回(180度方向転換)できる寸法 |
| 150cm | 車いす使用者が回転できる寸法/人と車いす使用者がすれ違える寸法 |
| 180cm | 車いす使用者が回転しやすい寸法/車いす使用者同士がすれ違える寸法 |
「通れる」「通りやすい」「回転できる」は別の寸法で、パースの印象では区別できません。
③ 車いす自体の大きさも、数字で押さえておく
同じ設計標準では、手動車いすの寸法としてJIS T 9201を示しており、全長1,200mm以下、全幅700mm以下、全高1,200mm以下とされています。電動車いす(JIS T 9203)も全長1,200mm、全幅700mm、全高1,200mmと記載されています。さらに、座位変換型の電動車いすでは、直径180cm以上の円が内接するスペースが必要と示されています。手動車いすの全幅は最大で70cmとされているため、通路の有効幅が90cm前後だと、左右の余裕はそれぞれ10cm程度です。
この計算は当社での単純な引き算で、実際には手の位置や操作のしやすさも関わります。ただ、数字にしてみると「パースの印象ほど余裕がない」と気づけることがあります。逆に言えば、寸法を数字で見ておくと、パースを見るときの目も確かになります。
④ 人物や家具の「実寸が分かるもの」を入れて、広さの印象を補う
寸法感を伝えたい通路では、人物や車いす、ベンチなどの実寸が分かるものを一緒に描くと、広さを読み取る手がかりになります。人物がいない絵は、見る人が空間の大きさを自分の経験で想像するしかなく、広く見積もってしまうことがあります。
一方で、人物や什器を入れすぎると、通路が狭く見えたり、肝心の空間が隠れたりします。何を、どこに、何人入れるかは、依頼時に伝えておくと手戻りを減らせます。什器・添景の決め方は、別記事「内観パースの什器・添景の決め方5つの基準」で紹介しています。
⑤ 確認したい動線と有効寸法を、発注時に伝える
寸法感を確かめたいなら、発注時に「どの通路・どの出入口を見たいか」と、図面上の有効寸法を伝えます。有効寸法が分からないと、パース側は図面上の寸法から仮定して描くことになり、実際の通行可能な幅とずれることがあります。必要な資料のそろえ方は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。
パースを受け取ったら、図面の有効寸法と並べて見る習慣をつけておくと確実です。パースで「広そう」と感じた場所は、図面でその寸法を確かめ、「通れる」「回転できる」のどの段階に当たるかを、上の表と照らして確認します。印象と数字が食い違った場合は、設計者に伝えて、図面かパースのどちらを直すかを相談します。
パースで確認できるのは、寸法の「印象」までです。バリアフリー基準への適合は、設計者と自治体の確認で決まるものなので、パースだけで判断しないようにします。
内観パースでは、通れるかどうかを図面の寸法で確認し、パースは寸法感を共有する資料と割り切るのが、確実な使い方です。



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