【影の長さは季節で変わる】日影規制のある敷地でパースの季節・時刻を決める5つのポイント|「冬至の8時〜16時」とパースの影は別物です

「北側の隣地に影がかかるので、冬の影が分かるパースにしてもらえますか。」
「この影で、日影規制は大丈夫と言えますか。」

日当たりが気になる敷地で外観パースを検討するときは、こうした疑問が出ることがあります。パースには影が描かれるため、そのまま日影の検討にも使えそうに見えるからです。

ところが、日影規制の測り方とパースの影は、前提がまったく別です。規制は冬至の決まった時間帯で測るのに対し、パースの影は依頼時に決めた季節と時刻の1枚にすぎません。この違いを知らずに頼むと、「確認に使えない絵」ができてしまうことがあります。

この記事では、日影規制のある敷地でパースの季節・時刻を決めるときの5つのポイントを、鹿児島県・静岡県の公開資料と国立天文台の解説をもとに紹介します。なお、この記事は日影規制の適否を判断するものではなく、パースの依頼で整理しておきたい点をまとめたものです。規制への適合は、設計者や自治体の窓口で確認してください。

① 日影規制は「冬至の午前8時〜午後4時」で測る

鹿児島県の「日影規制の手引き」によれば、日影規制は中高層の建築物が作る日影を一定の基準のもとで規制し、周辺の日照条件の悪化を防ぐための制度です。測定は、冬至の真太陽時(太陽が真南にくる時刻を基準にした時刻)の午前8時から午後4時までの間にできる日影で行います。静岡県の案内も、同じ冬至日の午前8時から午後4時を測定条件としています。

つまり規制の確認は「冬至の8時〜16時」という決まった条件で行うもので、「夏の昼ごろの影」や「夕方の影」を見ても、規制の判断材料にはなりません。パースで好きな季節・時刻を選べることと、規制が測る条件は別の話です。

② 規制の対象かどうかは、自治体と用途地域で決まる

日影規制は、建築基準法第56条の2と各自治体の条例に基づいて、対象となる区域が定められています。鹿児島県の手引きでは、都市計画の用途地域のうちから条例で指定するとされています。静岡県の条例では、第1種低層住居専用地域、第1種中高層住居専用地域、第1種住居地域、近隣商業地域、用途地域の指定のない区域などが対象に挙げられ、建築物の高さや階数に応じて対象になる条件も異なります。

規制値(敷地境界線からの距離ごとに許される日影の時間)も、用途地域や建物の種類で変わります。「前の案件では問題なかった」という経験は、次の敷地では当てになりません。規制の有無は、敷地を所管する自治体の建築指導の窓口か、設計者に確認するのが出発点です。

③ パースの影と日影図は、役割が別の図である

鹿児島県の手引きによると、日影規制の確認に使う日影図には、冬至日の真太陽時で8時から16時までの1時間ごとの、水平面上の日影の形状などを記入します。測定面の高さは、平均地盤面から1.5m(おおむね1階の窓の中心の高さ)または4m(おおむね2階の窓の中心の高さ)で、手引きでは低層住居専用地域などは1.5m、中高層住居専用地域などは4mとされています。

一方、外観パースの影は、建物や地面にできる影を、見映えのよい構図で描いたものです。2つを並べると次のとおりです。

項目 日影図(規制の確認) 外観パースの影
季節 冬至で固定 依頼時に指定(自由)
時刻 8時〜16時を1時間ごと 1枚につき1つの時刻
影を見る面 測定面(平均地盤面から1.5mまたは4m)の水平面 建物の壁面・地面など、見える範囲
使う目的 ◎ 規制の確認・協議 △ 完成後の見え方の説明(規制の確認には不向き)

パースの影は「見え方の絵」、日影図は「規制の確認図」で、置き換えはできません。

④ 季節で影の長さは大きく変わるので、季節を指定して頼む

国立天文台の解説では、太陽の南中高度は「90−(その場所の北緯)+(太陽の視赤緯)」で求められ、夏至で最も高く、冬至で最も低くなります。視赤緯は夏至でおよそ+23.4度、冬至でおよそ−23.4度です。ここからは当社での計算です。この式を北緯35度付近に当てはめると、南中高度は夏至で約78度、冬至で約32度になります。

影の長さは、物の高さを太陽高度の正接(タンジェント)で割って求められます。この計算では、同じ高さの建物が落とす影は、冬至の南中時のほうが夏至の南中時の約8倍の長さになります。冬の影は夏よりかなり長く、隣地や道路に届きやすい、ということです。

そのため、パースを発注するときは「何月ごろの」「何時ごろの」光で描くかを指定します。指定がないと、見映えのよい季節・時刻で描かれ、実際に気にしている冬の影が見えない絵になることがあります。時間帯の考え方は、内観についての別記事「内観パースの時間帯と照明の決め方5つの判断軸」も参考になります。

⑤ 影の向きを決める「方位」と建物の高さの資料を渡す

影の向きと長さは、方位(どちらが北か)と、建物の高さで決まります。配置図に方位記号がなかったり、軒高・最高高さが分からなかったりすると、パース側は影の向きや長さを仮定して描くことになります。冬の影を確認したいなら、方位記号入りの配置図と、各部の高さが分かる立面図・断面図を渡すのが基本です。必要な資料のそろえ方は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。

なお、「パースの影が隣地にかかっていない」ことは、規制に適合している証明にはなりません。規制の適否は日影図と自治体の確認で決まるものです。逆に言えば、規制の確認は設計者と自治体に任せ、パースは「冬の午前中にどう見えるか」を説明する資料と割り切れば、依頼の目的がはっきりします。

日影規制のある敷地では、規制の確認(日影図)と見え方の説明(パース)を分けて考えることが、手戻りを防ぐ近道です。パースは季節・時刻・方位を決めて依頼する、と覚えておいてください。

コメント