【段数を減らす前に】階段のある内観パースで確認したい5つのポイント|「ゆったり見せたい」と階段の寸法の食い違い

たとえば、こんな食い違いがあり得ます。
「階段を、もっとゆったり、段数を少なく見せてください。」
「でも、階段の段数は、図面で決まっているんだよな。」

吹き抜けや玄関ホールのパースでは、階段が画面の主役になることがあります。段数を減らして緩やかに見せたい、手すりを細くして軽く見せたい、といった希望は自然なものです。ところが、階段は、段の高さ(蹴上げ)や奥行き(踏面)、幅、手すりなどが、建築基準法施行令で定められています。

「段数を少なく」と書くだけでは、制作側は、図面の段数のまま描くのか、見せ方で調整してよいのかを判断できません。判断できないまま進めると、実際の階段とパースの階段で、段数や手すりが違ってしまうことがあります。

この記事では、階段のある内観パースを依頼するときに確認したい5つのポイントを、e-Gov法令検索の建築基準法施行令第23条から第25条をもとに整理します。法規への適合の判断は設計者や確認申請先の領域です。ここでは「パースの依頼文に何を書いておくか」に絞ります。

なお、条文に書かれていることと、筆者の見立てやパース依頼上の助言は、文を分けて書きます。後者には「筆者の見立て」と添えます。

① 階段の寸法は、用途や規模ごとに「表」で決まっている

施行令第23条第1項は、階段とその踊場の幅、階段の蹴上げ、踏面の寸法を、表で定めています。表は階段の種別ごとに分かれていて、たとえば、直上階の居室の床面積の合計が200㎡を超える地上階、または居室の床面積の合計が100㎡を超える地階・地下工作物内の階段(表の(三))では、幅120cm以上、蹴上げ20cm以下、踏面24cm以上です。(一)〜(三)以外の階段(表の(四))では、幅75cm以上、蹴上げ22cm以下、踏面21cm以上とされています。小学校の児童用や、劇場・映画館などの客用、床面積の合計が1,500㎡を超える物品販売店舗の客用などでは、さらに厳しい数値です。

同じ項のただし書のうち住宅の階段(共同住宅の共用の階段を除く)については、蹴上げを23cm以下、踏面を15cm以上とすることができる、という規定があります。

ここからは筆者の見立てです。どの階段がどの種別に当たるかは、建物の用途や規模で決まり、設計者が判断することです。パースを頼む側は、図面の階段の寸法を正として、依頼文に「階段は図面どおりに描く」と書いておくと、食い違いを減らしやすくなります。

② 段数は、階の高さと蹴上げの関係でほぼ決まる

ここは条文の話ではなく、算数の話(筆者の整理)です。下の階の床から上の階の床までの高さを、蹴上げで割った数が、おおよその段数になります。蹴上げに上限があるため、階の高さが同じなら、段数を減らすには限界があります。たとえば住宅の上限(23cm以下)で考えると、階の高さが2,800mmなら、最小でも13段になります(2,800÷230≒12.2)。

たとえば、階の高さが2,800mmだとします。次の図は、考え方を示すための仮の数値です。

仮の数値による階段の断面の概念図。階の高さ2800ミリで14段にすると蹴上げは200ミリ。12段にすると蹴上げは約233ミリになり、住宅の蹴上げの上限23センチを超える。
縮尺はなく、段の形の違いを示す概念図です。「段数」は蹴上げの数です。数値は仮の例で、実際の設計ではありません。

14段なら蹴上げは200mm、12段にすると約233mmで、住宅の蹴上げの上限(23cm以下)を超えます。ここからは筆者の見立てです。パースで「段数を少なく」描くと、見た目はすっきりしますが、実際の階段の寸法と合わなくなるおそれがあります。段数は図面の数を正とし、見せ方はカメラの位置・画角・照明や周辺の演出で調整するのが、無理のない整理です。

③ 回り階段は、踏面を測る位置が決まっている

施行令第23条第2項は、回り階段の部分における踏面の寸法を、「踏面の狭い方の端から三十センチメートルの位置において測る」と定めています。

ここからは筆者の見立てです。回り階段(曲がる部分にくさび形(扇形)の段がある階段)は、パースでは形が分かりにくい部位のひとつです。曲がる部分の段の形や数、曲がる位置を図面で示しておくと、制作側が勝手に形を決めずに済みます。平面図だけでなく、階段の断面図もあわせて渡すと、段の高さが読み取りやすくなります。

図面の渡し方は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。

④ 踊場と手すりは「あるもの」として描く

施行令第24条第1項は、踊場について、第23条の表の(一)または(二)に当たる階段(学校の児童・生徒用や、劇場・大型店舗の客用など)で高さが3mを超えるものは3m以内ごとに、その他の階段で高さが4mを超えるものは4m以内ごとに、踊場を設けなければならない、と定めています。第2項は、第1項により設ける直階段の踊場の踏幅を1.2m以上としています。

施行令第25条は、階段の手すりについて、第1項で「階段には、手すりを設けなければならない」と定め、第2項で階段と踊場の両側に側壁またはこれに代わるものを設けること(手すりが設けられた側を除く)、第3項で階段の幅が3mを超える場合に中間に手すりを設けること(蹴上げが15cm以下で踏面が30cm以上のものを除く)を定めています。第4項は、高さ1m以下の階段の部分には、これらを適用しないとしています。

ここからは筆者の見立てです。階段の手すりを細く、または見えにくく描くと、すっきり見えます。しかし、図面に手すりや壁があるのに、パースで消してしまうと、実際の階段の印象とずれます。手すりの形・高さ・素材は図面に合わせて描き、見せ方の調整は、カメラの位置で行うのが無難です。

なお、踊場の要否や、どの条文が自分の階段に当たるかは、階段の用途や高さによって変わります。判断は設計者に任せ、依頼側は、図面にある踊場と手すりはそのまま描く前提で依頼文に書きます。省略や簡略化の希望がある場合は、設計者に確認してから伝えます。

⑤ 判断は設計者と確認申請先。依頼側は階段の情報を揃える

階段が基準を満たしているかどうか、第23条の表のどの種別に当たるかは、設計者が検討し、確認申請などで確認される領域です。パースの制作側は、これらを判断する立場ではありません。

ここからは筆者の見立てです。依頼側にできるのは、設計で確定した階段の情報を、図面と依頼文で伝えることです。次の表のように、確認することと、パース依頼で伝えることを対応させて整理しておくと、制作側が迷いません。

確認すること 根拠(資料) パース依頼で伝えること
幅・蹴上げ・踏面の寸法 施行令第23条第1項 階段の断面図と段数、図面どおりに描くか
階の高さと段数の関係 施行令第23条第1項の蹴上げ上限からの算術(筆者の整理) 階の高さ(床から床まで)
回り階段の形 施行令第23条第2項 曲がる部分の段の形・数
踊場・手すり・側壁 施行令第24条・第25条 手すりの形・高さ・素材、踊場の位置

5つのポイントのうち、依頼文に書く情報は、段数・寸法、階の高さ、回り階段の形、手すりと踊場の4点です。これらを図面で示すと、階段まわりの食い違いを減らしやすくなります。「段数を少なく、ゆったり」という一言は、図面の階段を正とするか、階の高さはいくつか、曲がる部分をどう描くか、手すりと踊場をどう扱うかの4つに分けて伝えると、制作側に伝わりやすい指示になります。

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