
図面の隅に「無電解ニッケル 膜厚3μm以上」。表面処理の会社に声がかかるのは、多くの場合この一行が書かれたあとです。
素材も形も、要求される膜厚も、その時点でほとんど決まっています。残っているのは価格と納期だけなので、見積もりは相見積もりになり、単価はなかなか上がりません。表面処理は、部品ができあがったあとに通る工程だからです。
順番を変えるには、図面に処理指示が書かれる前に、誰と話しているかを変えるしかありません。めっき・塗装・アルマイト・熱処理の会社に向けて、当て先を2つ、当てる時期を4つに整理し、処理の種類によって言うことがどう変わるかまで書きました。
1. 表面処理が価格で比べられるのは、呼ばれる順番が最後だから
部品は、材料の手配から始まって、切削・板金・プレス・鋳造といった加工を経て、最後に表面処理に回り、組立へ進みます。このとき図面の注記欄には、こういう指示がすでに書かれています。
- 電気亜鉛めっき+三価クロメート
- 無電解ニッケルめっき 膜厚3μm以上
- 硬質アルマイト 膜厚30μm 封孔処理あり
- 浸炭焼入れ 表面硬さHRC58以上 有効硬化層深さ0.8mm
- 粉体塗装 指定色 塩水噴霧試験480時間
この指示を書いているのは、発注元メーカーの設計・技術です。加工会社ではありません。加工会社は、書かれた指示のとおりに出せる処理先を探しているだけです。
つまり、仕様を決める人と、発注する人が別なのです。仕様を決める人と話していなければ、発注する人のところで価格・納期・距離を比べられます。ここが、表面処理の単価が上がらない構造です。
2. 当て先は2つある。加工会社と、その先の発注元
表面処理の当て先は、この2つに分かれます。どちらも要ります。片方だけだと詰まります。
2-1. 先に当てるのは加工会社。ただし発注元を止めない
加工会社のほうが数が多く、外注先の入れ替えも起きます。今月の稼働を埋めるなら、こちらが先です。
ただし加工会社ルートだけを回していると、単価は上がりません。加工会社にとって処理費は原価で、安いほうがいいからです。
発注元ルートは時間がかかります。半年から1年、新しい機種が立ち上がるまで何も起きないこともあります。それでも並行して当て続ける理由は、図面に自社の処理名が入れば、次からは指名で回ってくるからです。加工会社が変わっても、処理は残ります。
3.「いまの処理屋で足りている」の正体は、4M変更の手間
新規で当てたとき、いちばん多い断り文句がこれです。ここを価格の話だと受け取ると、値引き合戦になります。
実際に起きているのは別のことです。製造業には4M変更管理——Man(人)・Machine(設備)・Material(材料)・Method(方法)が変わるときに、届け出て承認を取り、初回品を検査し直す仕組みがあります。自動車部品なら品質マネジメント規格IATF 16949が変更の管理を要求しており、発注元との取引基本契約で工程変更の事前承認を定めている会社も多くあります。
外注先を変えることは、この4M変更にあたります。つまり、断られているのは品質でも価格でもなく、承認をやり直す手間です。
だから狙うのは、まだ4M変更にならないところ——新規図番・試作・新機種・新しいラインです。ここは「変更」ではなく「新規採用」なので、承認の手間が最初から予定に入っています。
すでに流れている図番を横から取りにいくと、相手に手間だけが残ります。取りにいくのは、処理先がまだ決まっていない図番です。
4. 当てる時期は4つ
KOKONATSでリストを作るときは、キーワードを決めてGoogleで検索し、当てはまる会社を拾っていきます。この4つのどれを先に狙うかで、検索に使うキーワードが変わります。
①と②が量になります。③は入り込みやすい代わりに、次も同じことが起きたときに呼ばれる関係で止まりがちです。④は数が少ないものの、いったん通ると図面ごと変わるので長く残ります。
5. めっき・塗装・アルマイト・熱処理で、当て先も言うことも変わる
ひとくくりに「表面処理」と言っても、素材が違えば当て先の業種が変わります。
熱処理は、分類のうえでは表面処理と別の工程です。浸炭や窒化のように表面だけを硬くする処理もあれば、焼入焼戻しのように部材全体に効く処理もあります。それでもこの記事で一緒に扱っているのは、発注元から見れば「加工のあとに外へ出す後工程」で、外注先の選び方と承認の手順が同じだからです。
現場で使われる言葉は分野ごとに違います。電話口で相手が使った言葉を、そのまま自社の言葉に置き換えずに書き留めておくと、2回目の会話が変わります。
6. 電話をかける前に、受けられる条件を1枚にする
表面処理は「できる/できない」がはっきり分かれる仕事です。話を聞いてから断ると、相手の時間を使わせたことだけが残ります。先に条件を出して早く断るほうが、次に声がかかります。
書き出しておく項目は、だいたいこの8つです。
- 素材……鉄、ステンレス、アルミ、銅合金、亜鉛ダイカスト。受けられない素材はどれか
- 寸法……槽に入る最大寸法。長物、大物、薄物の可否
- ロット……1個から受けるか、最小ロットがあるか
- 治具……既存のラックで対応できるか、新規に作るか。その費用と期間
- 納期……標準の中2日/中3日と、特急の可否
- 試験……膜厚測定、塩水噴霧試験、密着性試験を自社で持っているか、外部に出すか
- 書類……試験成績書、ミルシート、RoHSの非含有証明を出せるか
- 運搬……引き取りに行けるか、持ち込みか。梱包の指定に応じられるか
これは営業のトークではなく、受注の条件そのものです。社長の頭のなかにしかない状態だと、社長以外の誰も電話をかけられません。1枚にした時点で、電話をかける人を増やせます。
7. 制度の話は、相手より貴社のほうが詳しい
表面処理は、設備を置いただけでは始められない仕事です。水質汚濁防止法では、施行令の別表第1で「特定施設」が定められていて、届出の対象になります。
- 第66号 電気めっき施設
- 第65号 酸又はアルカリによる表面処理施設
- 第63号イ 金属製品製造業又は機械器具製造業の用に供する焼入れ施設
めっきも、酸洗などの前処理も、熱処理の焼入れも、それぞれ特定施設として並んでいます。
排水基準にも、この業種だけの事情が残っています。亜鉛含有量の一般排水基準は2mg/Lですが、電気めっき業には暫定排水基準4mg/Lが設定されており、令和6年12月11日施行の改正で令和11年12月10日まで延長されました。亜鉛の暫定基準が残っているのは、この1業種だけです(環境省報道発表)。
もうひとつ、六価クロムがあります。EUのRoHS指令では六価クロムが制限対象物質で、均質材料中0.1重量%が基準値です。輸出先を持つ発注元が三価クロメートへ切り替える理由は、ここにあります。
この話を「規制が厳しくて大変だ」で終わらせないでください。届出を通し、排水処理設備を維持し、基準を守って操業している会社にしか、この仕事は受けられません。新しく参入する会社が増えない理由でもあります。相手の購買担当者が、ここまで知っていることはまずありません。
※制度の数値は執筆時点のものです。最新の内容は環境省の告示・各自治体の窓口でご確認ください。
8. KOKONATSの場合:最初の接点をつくるところだけを切り出す
表面処理の会社の強みは、処理の中身を具体的に説明できることです。膜厚のこと、歪みのこと、なぜその納期になるのかを社長が説明できれば、話は前に進みやすくなります。
足りないのは、その説明の場をつくるための「最初の電話」をかける人です。社長は現場と見積もりで手一杯で、新しい相手に電話をかけ続ける時間がありません。その結果、新規開拓は社長が空いた時間にやるだけになってしまいます。
KOKONATSがお引き受けしているのは、最初の接点をつくるところだけです。
- 当て先の設計……加工会社ルートと発注元ルートのどちらを先に回すかを決め、検索に使うキーワードを一緒に決める
- リストの作成……決めたキーワードでGoogle検索し、当てはまる会社を拾う
- 架電と記録……反応と断られた理由を分類し、当て先の設計に戻す
担当者につながらない相手には、最大6回まで架電するルールで運用しています。設計・生産技術・品質保証は現場や立会いに出ていることが多く、1〜2回では「不在」と「見込みなし」の区別がつかないためです。
料金は公開しています。
| プラン | 月額(税抜) | 対象 |
|---|---|---|
| 高精度マッチング(機械加工・板金等) | 140,000円 | 200社 |
| 大型案件創出(製造装置・FA等) | 230,000円 | 200社 |
| 見込み客フォローアップ特化 | 80,000円 | 100社(枠) |
| 初期費用 | 0円 | 全プラン共通 |
アポインセンティブは、高精度マッチングが15,000円/件(キャンペーン中は5,500円/件)、大型案件創出が30,000円/件です。
【見込み客フォローアップ特化プラン】は、展示会やWebからの問い合わせ、試作を1回だけ受けたあと止まっている相手を、半年から1年かけて追い続けるためのプランです。「100社」は名簿の数ではなく、同時に追い続ける枠の数を指します。確度が低いと分かった先は枠から外し、空いた枠に次の候補を入れます。外した理由は毎月のレポートで返します。なお、このプランはアポインセンティブ・コールリスト作成の対象外です。
試作から量産までに時間がかかる商材では、1回当てて終わりにしないことが、そのまま成果につながります。
9. まとめ
- 表面処理は呼ばれる順番が最後。図面に処理指示が書かれたあとでは、価格と納期でしか比べられない
- 当て先は2つ。加工会社(購買・生産管理。早いが単価は上がらない)と発注元メーカー(設計・生産技術・品質保証。遅いが図面に残る)
- 「いまの処理屋で足りている」の正体は4M変更の手間。だから取りにいくのは、処理先がまだ決まっていない新規図番・試作
- 当てる時期は4つ。試作・量産立ち上げ/処理先が止まった/不具合が出た/規制対応で仕様が変わる
- めっき・塗装・アルマイト・熱処理で相手が気にすることが違う。膜厚、歪み、寸法増、色——最初に出す情報を分野ごとに変える
- 電話の前に受けられる条件を1枚にする。素材・寸法・ロット・治具・納期・試験・書類・運搬。社長以外が電話をかけられるようになる
- 特定施設の届出、亜鉛の暫定排水基準、六価クロム。制度を守って操業していること自体が、参入されにくさの裏返し
KOKONATSでは、製造業に特化した営業代行・インサイドセールスを行っています。ターゲットの選定からリスト作成、アポイント獲得、断られた相手の追客までを一貫してお引き受けします。
次の新機種の図面に自社の処理名が入るかどうかは、図面が引かれる前に決まっています。
初期費用0円。料金・支援の流れはこちらから。
💰 表面処理業向け営業代行の料金・詳細を見る
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よくある質問
加工会社と発注元、どちらから当てるべきですか?
加工会社が先です。数が多く、外注先の入れ替えも実際に起きるため、今月・来月の稼働につながりやすいからです。ただし加工会社にとって処理費は原価なので、そこだけを回していると単価は上がりません。発注元への架電は、件数を絞ってでも並行して続けてください。図面に処理名が入れば、加工会社が変わっても仕事は残ります。
うちは槽が小さく、大物は受けられません。それでも新規開拓できますか?
できます。むしろ受けられない条件を先に言えるほうが、話が早く進みます。大物を持っている処理先は、小ロットや特急を嫌がることがあります。「1個から、中2日で」が通る相手は必ずいます。第6章の8項目を1枚にまとめ、電話の最初にサイズとロットを言ってしまう形にしてください。
「いまの処理屋で足りている」と言われたら、そこで終わりですか?
終わりではありません。この言葉の中身は、4M変更の届出と承認をやり直したくないということです。ですので聞くのは「変えませんか」ではなく、「新しい図番が立ち上がるのはいつごろですか」です。そこは変更ではなく新規採用なので、承認の手間が最初から予定に入っています。断られた相手ほど、時期を置いて当て直す価値があります。
熱処理も同じやり方でいいですか?
当て先と時期の考え方は同じです。加工会社の後工程として出ていく点も、4M変更の壁がある点も変わりません。違うのは相手が最初に気にすることが、膜厚ではなく硬さと歪みになることです。処理後にどれだけ変形するか、研磨などの後加工をどこまで見込むか——ここを先に出せるかどうかで、試作の一発目を任せてもらえるかが変わります。
製造業の新規開拓そのものを、もう少し広く知りたいのですが
業種別に記事を用意しています。あわせてご覧ください。



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