【隣の家まで描く?】外観パースで周辺建物をどこまで再現するか決める5つのポイント|「周りも実際のまま」が意味する範囲

依頼文に「周りも実際のままで」と書いたとき、その「周り」は隣の家1軒でしょうか。道路の向かいまででしょうか。それとも、敷地から見える街並み全体でしょうか。

建物本体には図面がありますが、隣地や周辺の建物については、設計者の手元にも図面がないのが普通です。範囲と詳細度を決めないまま進めると、制作側は「どこまで調べて描くか」を判断できません。依頼側も、仕上がりを見て初めて「ここまで描くとは思わなかった」「そこは簡略でよかった」と気づくことになります。周辺表現の食い違いは、こうした構造から起きやすくなります。

この記事では、外観パースで周辺建物をどこまで再現するかを決める5つのポイントを、国土交通省・国土地理院・自治体の資料をもとに整理します。景観法の届出手続そのものは、別記事「景観法の届出・事前協議で求められる完成予想図の確認点5つ」で扱っているため、ここでは「周辺をどこまで描くか」に絞ります。

なお、実在の隣家の外観が個人情報やプライバシーに当たるかといった法的判断は、設計者や弁護士の領域です。この記事は法的な助言ではなく、公的な資料で言える範囲と、依頼時の確認点をまとめたものです。

① 「周り」の範囲を、方向・距離・軒数で言葉にする

景観法の届出でどんな書類が求められるかは自治体ごとに異なり、その整理は別記事に任せます。ここで押さえておきたいのは、名古屋市の届出書類の案内でも、周辺は「隣接建築物など」「周辺状況」という言い方で書かれている点です。

この言い方だけでは、何軒先まで、道路の向かい側まで描くのかは決まりません。依頼する側が言葉にしないと、制作側は決められません。

決めるのは3つだけです。「どの方向が写るか」「隣地だけか、道路の向かいまでか」「左右それぞれ何軒までか」。写る方向はカメラ位置で決まるため、別記事「建築パースのカメラ位置と構図の決め方5つの基準」とあわせて考えると整理しやすくなります。逆に言えば、画面に入らない建物は、範囲を決めた時点で描く対象から外せます。

② 周辺建物の詳細度は3段階で決める

国土交通省のProject PLATEAU(3D都市モデル)では、建築物の詳細度(LOD)が段階で示されています。LOD1は「直方体の組み合わせで構成されたもの。箱モデル」、LOD2は「屋根や壁などを再現したモデル」とされ、LOD3では屋根や壁に加えて窓や扉を記述できるとされています。

LOD1には注意点もあります。国土交通省の解説では、LOD1は建築物の高さの中央値を採用しているため、低層部と高層部があるビルなどでは高さが正確に再現されない場合もある、とされています。簡略化した箱でも、高さを1つの値に丸めると実物とずれることがある。この点は、パースの周辺建物にも通じる考え方です。

ただし、これは都市モデルの規格であり、パースの詳細度を定めたものではありません。それでも「箱」「屋根・壁まで」「窓・素材まで」と段階を分けて話すと、打ち合わせが具体的になります。

段階 再現する内容 向く周辺建物 注意点
箱(外形と高さ) 外形と高さのみ。壁は単色で、屋根形状や窓は描かない 道路の向かいや背景の遠景 高さを代表値に丸めると実物とずれる場合がある
屋根・壁まで 屋根形状と壁面の区分。色味は現況写真に合わせる 左右の隣地、向かい側の建物 写真で屋根が確認できない部分は推定になる
窓・素材まで 窓や玄関の位置、外壁材などの細部 景観や説明で特に見せる必要がある建物に限る 実在の外観を細部まで写すことになる(⑤)

周辺は一律に細かくせず、見せたい建物から離れるほど「箱」に近づける。これが、この記事としての目安です。

※段階の呼び名は、PLATEAUのLODの考え方を借りてこの記事で整理したもので、結論文も含め公的な基準ではありません。

遠景 隣地A 計画建物 隣地B 道路 向かい 向かい カメラ位置 再現の詳細度 窓・素材まで 屋根・壁まで 箱(外形・高さ)
概念図です。緑の破線がカメラから見える範囲で、その外側(図では奥の遠景)は描かないか、箱にとどめる判断ができます。範囲内でも、どの建物を細かくするかは目的しだいです。図では隣地Aだけを窓まで、隣地Bと左の向かいを屋根・壁まで、右の向かいを箱で描く例を示しています。配置や大きさは実寸ではありません。

③ 周辺との関係は、位置・高さ・色から押さえる

国土交通省の「景観計画策定・改定の手引き(策定編)」には、景観形成基準の検討例が載っています。旧市街地を想定した検討例③の建築物の基準には、配置として「通りに面する壁面の位置は、周囲の伝統的な建築物がつくりだしている壁面位置に揃える。」、高さとして「周囲の伝統的な建築物と調和した高さにするよう努める。」、屋根として「屋根は勾配屋根とし、その勾配は周囲の伝統的な建築物と類似したものとする。」、色彩として「壁の色彩は街並みに調和した落ち着いた色彩とする。伝統的な建築物と調和した色彩とする。」といった項目が並んでいます。高さは「努める」とされる努力目標の書き方で、他は「揃える」「とする」と書かれています。

自然眺望を保全する検討例④では、視点場からみた景観のうち、対象行為の「形態」「色彩」「反射」が良好な眺望景観を阻害しないことが、基準のイメージとして示されています。検討例には壁面の位置、色彩、屋根、建具、高さなど多様な項目があり、実際の基準は自治体の景観計画ごとに異なります。

近隣への説明でも、周辺の建物との関係が出てきます。板橋区の中高層建築物紛争予防条例の手引きでは、近隣住民への説明事項に「付近の建築物の位置の概要」や、「日影、通風、採光、プライバシー等の周辺環境に及ぼす影響とその対策」が挙げられています。ただし対象は中高層建築物で、第1種低層住居専用地域では「軒の高さが7メートルを超える建築物又は地階を除く階数が3以上の建築物」、その他の地域では「高さが10メートルを超える建築物」とされています。近隣住民は、当該中高層建築物の敷地境界線から当該中高層建築物の高さの2倍の水平距離の範囲内にある土地や建築物の所有者・居住者などです。規模や手続きは自治体で異なります。

ここまでの資料は、周辺との関係が位置・高さ・色彩・形態などにわたって問われることを示しています。そのうえで、パースの周辺建物では位置と高さの関係を先に押さえ、次に色の調子、窓や素材などの細部は最後にする、という順番を提案します。これは出典が定めた優先順位ではなく、この記事としての考え方です。日影やプライバシーへの影響の検討は設計側の作業で、パース1枚で示すものとは限りません。周辺で先に押さえたいのは、細部の再現より、位置と高さの関係です(この記事の優先順位)。

④ 現況写真・図面・測量資料は「隣接建築物が分かる形」で渡す

名古屋市の案内にあるとおり、配置図には隣接建築物の位置を示し、現況写真は隣接建築物が把握できるものを数枚そろえるのが、周辺情報を伝える基本の組み合わせです。パースの依頼でも、この2つが出発点になります。

渡し方で差が出るのは、次の3点です。

  • 現況写真には、撮影した位置と向きを配置図に書き込みます。どこから撮ったか分からない写真は、隣地の見え方を再現する根拠になりにくくなります。
  • 隣地の高さが測量図や断面図で分かる場合は、その資料を添えます。分からない場合は、「推定で描く」か「箱にとどめる」かを先に決めておきます。
  • 3D都市モデルのデータがある地域では、その高さを手がかりにする方法もあります。ただし②のとおり中央値なので、低層部と高層部がある建物は、現地や図面と照らす必要があります。

推定を含む部分は、推定であることを図面や写真に書き添えて渡すと、制作側も、仕上がりを図面と見比べる依頼側も判断を誤りにくくなります。「周りも実際のまま」の「実際」が、測量で確認した高さなのか、写真から読み取った推定なのかを区別するのが、手戻りを減らす近道です。

⑤ 実在の隣家を「そのまま」写す前に、描き込まない選択肢を持つ

測量行政懇談会の「地理空間情報の活用における個人情報の取扱いに関するガイドライン(測量成果等編)」(平成23年9月)は、国土地理院のサイトで公開されている、測量成果の公開などを念頭に置いた指針です。この中で、地上写真等については、特定の個人識別の可能性のある人の顔、表札及び車両ナンバーに、塗りつぶしやぼかし等の加工措置を施すことが望ましいとされています。

空中写真についても、プライバシーは法令等により明確に定義づけられているものではなく、その範囲にも幅があるとしたうえで、地上解像度40cm程度では建物外形や道路形状は判読できる一方、みだりに他人に知られたくない情報の代表例である洗濯物は判読できない、と述べています。地番や住居番号まで明示した住所の表記は、登記簿や表札の情報と照合することで個人を識別できる可能性がある情報、ともされています。

注意したいのは、この指針が測量成果の公開を想定したもので、パースの作り方を定めたものではない点です。住宅の外観そのものが個人情報やプライバシーに当たるかは、この資料からは判断できません。その判断は、設計者や弁護士に確認してください。

そのうえで、依頼側が先に決めておけることはあります。表札、車両ナンバー、人物は描かない。窓の中や洗濯物のような生活の気配は描き込まない。パースを近隣の方に見せる場面では、隣家の方自身が目にする可能性もあります。逆に言えば、②の「箱」や「屋根・壁まで」で止めれば、特定の家を細部まで写す必要はありません。窓・素材まで描く必要が出たときだけ、設計者と相談して詳細度を上げれば足ります。

依頼時には、次の4点を伝えておくとスムーズです。

  • 周辺として描く範囲(方向・距離・左右それぞれの軒数)
  • 敷地と隣接建築物の位置関係が分かる配置図と、撮影位置・向きを書き込んだ現況写真
  • 隣地や周辺建物の高さが分かる資料と、分からない部分の扱い(推定で描くか、箱にとどめるか)
  • 実在の外観をどこまで写すかの方針(窓・付属物・植栽・車・人物を描くか)

必要な資料の全体像は、別記事「建築パースに必要な資料と渡し方7項目」にまとめています。「周りも実際のまま」という一言は、範囲・詳細度・情報の出どころ・描き込まないものの4つに分けて初めて、制作側に伝わる指示になります。

コメント