「模型も作ってほしいし、CGパースも見せてください。」
「とりあえず両方お願いできますか。」
建築パースの発注担当者の中には、検討の初期段階でこう考える方が少なくありません。どちらも「案を分かりやすくする道具」であることは間違いないため、両方あれば安心だと感じるのは自然なことです。
しかし模型とCGパースは、得意な場面がはっきり分かれる別の道具です。検討の段階や見せる相手を考えずに両方を同時に発注すると、費用と時間が重複しただけで、どちらも中途半端な使い方になってしまうことがあるというのが実情です。
この記事では、模型とCGパースをどの場面でどう使い分けるべきか、発注前に押さえておきたい5つの視点を紹介します。なお、当社はCGパースの制作を専門としており、模型の製作は承っていません。
① そもそも模型とCGパースは「何のための道具」なのか
模型は手を動かしながら形を確かめる道具で、CGパースは完成後の見え方を関係者に共有する道具です。京都芸術大学が公開している建築デザインコースの解説記事では、設計のプロセスを「悩み、決断し、図面を描いて模型を作り、また新たな悩みを発見し、そして決断し、また図面を描いて模型を作る」という反復のサイクルとして説明しており、このサイクルを繰り返すことで「デザインは切れ味を増し、密度が高まっていく」としています。
つまり模型は、案がまだ固まっていない段階で「触りながら気づく」ために作るものです。一方CGパースは、案がある程度固まった後に「見せて合意を取る」ために作るものです。同じ「案を分かりやすくする道具」でも、使う目的の時点で別物だと考えたほうが失敗しません。
② 検討の初期段階(ボリューム・配置)は模型が強い
建物の大まかな量感や、敷地内での配置・動線を検討する初期段階では、模型のほうが向いています。前述の京都芸術大学の記事でも、住宅架構の授業で学生が構造模型を製作する過程について「構造のコツを直感的に身に付けていく」と紹介されており、模型は画面越しに見るだけでは得にくい実寸に近い感覚を、手を動かしながらつかめる点に強みがあります。
複数案を並べて見比べたり、その場で角度を変えて全員で覗き込んだりできるのも模型ならではです。逆に言えば、この段階でCGパースを先に作ってしまうと、カメラアングルを1つに決めた「見た目」の検討が先行し、配置そのものを見直すべき問題を見落としやすくなります。
③ 説明・共有の場面はCGパースが強い
案がある程度固まり、遠方の関係者に共有したり、時間帯や仕上げ材のパターンを比較しながら詰めたりする場面では、CGパースのほうが向いています。3DCGの制作環境を提供するEpic Gamesの公式ブログでは、リアルタイムレンダリングツールのTwinmotionについて「数クリックでPBRマテリアルの割り当てや照明の設定、季節や天候の選択まで行える」こと、RevitやARCHICADなどの設計ソフトと直接同期できることが紹介されています。模型で同じ変更をするには作り直しが必要ですが、CGデータであれば条件を変えて何パターンも短時間で比較でき、メールやオンライン会議でそのまま共有できるのも利点です。
ただしCGパースは画面越しの情報であるため、実際のスケール感や素材の質感までは伝わりにくい面があります。「画面で見たときと実物の印象が違った」という行き違いを避けるには、重要な仕上げ材や色は現物サンプルを別途用意して補うのが安全です。
④ 模型を発注する場合に知っておきたい費用と納期の目安
3Dプリントで模型を製作するリコーの建築・土木模型向け出力サービスの案内ページでは、試作部品の価格例として1個42,000円〜82,000円程度(方式や材料により変動)、標準納期は4〜10営業日と示されています。最短で注文の翌日発送に対応できる場合もあるとされていますが、サイズや個数によって費用・納期が大きく変わるため、個別の見積りが前提になる点は押さえておく必要があります。
同ページでは模型のメリットとして「立体モデルで住民説明や工事説明がスムーズになる」「可視化や指差し確認により関係者協議や合意形成が迅速化する」ことに加え、「新人・若手技術者でも構造をイメージしやすく、教育にも活用できる」点も挙げられています。CGパースの制作日数の内訳は、弊社の別記事「建築パースの納期の内訳と5つの工程」で詳しく紹介しているので、模型と合わせて検討する際は参考にしてください。
⑤ 予算が限られるときは、どちらか1つではなく「順番」で解決する
予算や納期が限られている場合、「模型かCGパースかどちらか1つに絞る」よりも、「検討段階に合わせて順番に使う」ほうが無駄が少なくなります。簡易な量感模型(スタディ模型)で配置とボリュームを固めた後、その案をベースにCGパースで仕上げの見え方を詰める、という順番であれば、模型に高い精度は不要ですし、CGパースも作り直しの少ない最終段階だけに集中して発注できます。
両方を同時並行で精度高く進めようとすると、模型側の変更がCGパース側の修正を呼び、その逆も起きるという往復が発生しやすくなります。逆に言えば、どちらを先に固めるかを最初に決めておくだけで、この往復はかなり減らせます。
| 場面 | 模型 | CGパース |
|---|---|---|
| 検討初期のボリューム・配置検討 | ◎ 手を動かしながら気づける | △ カメラ視点が先に固定される |
| 遠方への共有・オンライン説明 | △ 現物を送るのは非現実的 | ◎ データのまま即共有できる |
| 照明・時間帯・仕上げ違いの比較 | × 条件ごとに作り直しが必要 | ◎ 数クリックで条件を変更できる |
| 実寸・スケール感の把握 | ◎ 手に取って比較できる | △ 画面越しでは伝わりにくい |
検討初期は模型、仕上げの詰めと共有はCGパースという順番が、費用と時間を無駄にしない基本形です。
模型とCGパースは、どちらが優れているかを競う関係ではなく、検討の段階によって役割が入れ替わる道具です。「とりあえず両方」で発注する前に、今どの段階の検討をしているのかを整理するだけで、費用と納期のどちらも無駄なく使えるようになります。
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