【納品後にモメない】建築パースの著作権は誰のもの?発注前に確認したい5つのポイント|「実績公開はOK?」を契約前に解消します

「気に入って使っている外観パース、そのまま会社のSNSに載せてもいいんでしょうか」
「担当してくれた制作会社が実績ページに同じパースを載せていて、公開していいものか迷っています」

建築パースを発注する際、「著作権」や「使用できる範囲」を契約書で明確に取り決めないまま進んでしまうケースは珍しくありません。

建築パースは単に図面を3Dに起こすだけの機械的な作業ではなく、どの角度から見せるかという構図、空間の照らし方、素材の質感表現に制作者の創作性が込められた「著作物」で、著作権法上も保護の対象になります。「お金を払って発注したのだから、当然自分たちのものだろう」という思い込みと、実際の権利の所在にズレが生じやすいのが現実です。

この記事では、建築パースの著作権が誰に帰属するのか、実績公開やSNS掲載、AI生成パースの扱いまで、発注前に確認しておきたい5つのポイントを紹介します。

① 著作権は原則「発注者」ではなく「制作者」に帰属する

著作権法第二条第一項第一号は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています。建築パースは、構図・ライティング・マテリアル設定・雰囲気の演出のひとつひとつに制作者の創作的な判断が反映されているため、「美術の著作物」として保護されるのが一般的な考え方です。

著作権は、著作物を創作した人(著作者)に自動的に発生します。制作会社に所属するスタッフが業務としてパースを制作した場合は「職務著作」として法人に著作権が帰属するのが通常ですが、いずれにせよ権利の起点は「制作した側」です。発注し、料金を支払ったという事実だけでは、著作権は発注者側に移転しません。

著作権譲渡契約を結んだ場合でも、注意が必要な落とし穴があります。契約書に単に「著作権は発注者に帰属する」とだけ書いても、翻案権や二次的著作物の利用権(パースを元に動画やVRコンテンツなど別の著作物を作る権利)は、明記していない限り制作者側に留保されたと推定される規定があるためです。将来そのパースを元にウォークスルー動画を作りたい、といった二次利用の予定がある場合は、契約時点でその権利まで含めて譲渡・許諾を受けるのかを具体的に取り決めておく必要があります。

■よくある誤解

「制作費を払ったから、パースの権利は全部こちらのもの」と考えてしまいがちですが、著作権を発注者側に移すには、制作費とは別に「著作権譲渡契約」を結ぶ必要があります。譲渡の合意がなければ、著作権は制作者側に残ったままというのが原則です。

② 著作者人格権は譲渡できない――「同一性保持権」でモメる典型パターン

著作権は大きく分けて「著作者人格権」と「著作財産権」の2つで構成されています。複製権・公衆送信権・譲渡権・二次的著作物の創作権といった「著作財産権」は契約によって譲渡できますが、公表権・氏名表示権・同一性保持権からなる「著作者人格権」は、著作者本人の人格に結びついた権利のため、他人に譲渡することができません。

実務でよく問題になるのが「同一性保持権」です。納品されたパースの色味を発注者側が勝手に調整したり、大胆にトリミングしたりする行為は、この同一性保持権の侵害にあたる可能性があります。著作権譲渡契約の中に「著作者人格権を行使しない」という不行使特約が盛り込まれていれば話は別ですが、そうでない場合は、軽微な調整であっても事前に制作者へ相談するのが安全です。

③ 実績公開・ポートフォリオ利用は契約書の条項次第

制作会社側から見ると、納品したパースを自社の実績ページやSNSで公開したいというニーズは自然なものです。ただし、著作権が制作者側にある場合でも、発注者との間で守秘義務契約を結んでいれば、無断で公開することはできません。

逆に言えば、契約書に「実績公開」に関する条項があるかどうかを事前に確認しておけば、公開の可否をめぐる後々のトラブルは避けられます。「プロジェクトの公開後であれば実績として使用可」といった形で、条件をあらかじめ取り決めておくのが理想です。発注者側も、パースを外部に見せたくない事情がある場合は、その旨を契約時に明示しておく必要があります。

④ AI生成パースの著作権は「創作的寄与」の有無で判断される

近年はAIを活用したパース制作も広がっていますが、AIが生成した建築パースの著作権については、まだ法整備が追いついていない発展途上の分野です。ポイントになるのは「人がどこまで手を加えたか」です。AI任せで出力しただけのものは、AIに「思想又は感情」がない以上、著作物として保護されにくいという見方が現時点では有力です。逆に、狙いを持ってプロンプトを練り込んだり、出力結果を土台に構図・ディテールを人が大きく作り込んだりした場合は、その人の創作性が認められ、著作者になり得ると考えられています。

AIで生成した画像をたたき台にして、そこから制作者が構図やディテールを詰め、独自の創作性を加えていくことで、オリジナルの著作物として完成度を高めていく、という流れが現在の実務に近い運用です。AI生成パースを商用利用する場合は、利用するAIサービスの利用規約を確認し、学習データに由来する著作権侵害のリスクにも留意する必要があります。この分野はルールが今後変わっていく可能性がある点も、あわせて押さえておきたいところです。

⑤ 支給素材(施主提供の写真・3Dモデル)にも著作権リスクがある

パース制作では、施主や発注者側から家具の3Dモデルや参考写真などの素材が支給されることがあります。この支給素材の著作権は、その素材を作った人に帰属します。発注者が「使ってよい」と渡した素材であっても、発注者自身がその素材の使用許諾を正式に得ているとは限りません。

万が一、無断で使用されていた素材だった場合、パースの制作者側も著作権侵害の責任を問われる可能性があります。支給素材を受け取る際は、出所と使用許諾の有無を発注者に確認しておくことが、双方にとってのリスク回避につながります。海外の発注者とのやり取りが発生する場合は、著作物が利用される国の法律が適用されるという「属地主義」の考え方(ベルヌ条約)もあるため、契約書に準拠法を明記しておくと、後々の食い違いを防ぎやすくなります。

契約状態別に見る、できること・できないこと

契約の結び方によって、発注者・制作者それぞれができることは大きく変わります。下の表は、一般的な傾向を整理したものです(実際の可否は個別の契約内容によって異なります)。

契約の状態 パースの複製・Web公開 改変(色味・トリミング等) 制作者のポートフォリオ利用
口頭発注のみ・契約書なし △ 制作者の許諾が必要 × 同一性保持権の侵害リスク ○ 制作者は比較的自由
使用許諾契約(範囲限定) ◎ 合意した範囲内は自由 △ 不行使特約次第 △ 条項次第
著作権譲渡契約 ◎ 発注者側が自由に可能 △ 不行使特約があれば可能・なければ人格権侵害リスク × 条項がなければ不可

「範囲を契約書に明記する」ことが、公開後のトラブルを防ぐ最も確実な方法です。

この記事のポイント

  • 著作権は制作者に帰属するのが原則。発注・支払いだけでは権利は移転しない。
  • 著作者人格権(同一性保持権等)は譲渡できない。色味の調整やトリミングも事前相談が安全。
  • 実績公開の可否は契約書の条項次第。公開してよい条件を事前に取り決めておく。
  • AI生成パースの著作権は「創作的寄与」の有無で判断される。ルールは今後変わりうる発展途上の分野。
  • 支給素材の著作権侵害リスクは発注者側にも及ぶ。出所と使用許諾を確認しておく。

著作権まわりのルールは、専門的で分かりにくく感じられるかもしれません。ですが、発注前に「実績公開はできるか」「著作権譲渡は必要か」「改変の可否」を契約書で一言確認しておくだけで、納品後のすれ違いはかなりの部分を防げます。迷った場合は、発注段階で制作会社に直接確認しておくのが確実です。

参考にした情報源

著作権法(第二条・第十五条・第十七条・第五十九条・第六十一条)、知的財産取引に関するガイドライン・契約書のひな形(中小企業庁)、外部業者に委託した制作物の著作権は誰のもの?(ファースト&タンデムスプリント法律事務所)。個別の契約内容によって権利関係は変わるため、実際の案件では契約書の記載を必ずご確認ください。

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