マレーシアの所得税は暦年で締めて、翌年の春から夏にかけて申告と納付を行います。日系の会計事務所などに代行を頼むと、内容にもよりますがRM1,500ほどかかることもあります。
その費用をかけずに自分でやる場合、どこで何をすればいいのか。ここでは実際に自分で手続きをしたときの流れをもとに、2026年時点の情報に合わせて整理します。
手続きの窓口は「MyTax」というポータルに一本化され、申告も納付も原則オンラインで完結するようになりました。それでも詰まりやすい場面は残っていて、初回のアカウント取得と、年度途中で退職して帰国するときの手続きの2つがそれにあたるのが現実です。
この記事では、誰が申告するのか、期限はいつか、どう納めるのか、そして帰国時に何が必要になるのかを1本にまとめます。
1. まず「居住者」かどうかで税率がまったく違う
マレーシアの所得税は、国籍ではなくその年に何日マレーシアにいたかで扱いが変わります。基準は182日です。ここを外すと税額が倍近く変わることがあるので、最初に確認すべき点です。
| 区分 | 判定 | 税率 | 控除 |
|---|---|---|---|
| 居住者 | その年の滞在が182日以上 | ○ 累進課税 | ◎ 各種控除あり |
| 非居住者 | 182日未満 | × 一律30% | × 原則なし |
1リンギット目から30%が引かれるのが非居住者扱いです。滞在日数は税額に直結します。
ただし182日は唯一の物差しではありません。所得税法第7条には、182日未満でも前年・翌年の滞在期間と接続している場合や、過去4年の滞在実績によって居住者と判定される規定があります。日数がぎりぎりのときは自己判断せず、LHDNに確認してください。
2. 申告から納付までは4ステップ
- 1. 税番号とMyTaxのアカウントを取る ― 最初の1回だけの関門
- 2. e-Filingで申告する ― 会社員はEA Formの数字を転記していく
- 3. 税額が確定する ― 毎月の源泉徴収(PCB)との差額が出る
- 4. 納付する ― ByrHASiLか銀行のオンラインバンキングで
マレーシアで就労して一定額以上の所得がある人は、原則としてこの申告の対象になります。まだ税番号(TIN)を持っていない場合は、MyTaxのe-Daftarからオンラインで登録します。2024年1月以降、個人の登録はこのオンライン申請に一本化されており、外国人はパスポートの写しなどを添付して申請します。
会社員の場合、毎月の給与から源泉徴収(PCB / Potongan Cukai Bulanan)が引かれていることが多いのですが、それで完了ではありません。年に一度、自分で申告して精算する必要があります。日本の年末調整の感覚でいると、この一手間を見落とします。
3. 期限は「手動」と「e-Filing」で日付が違う
| 申告書 | 対象 | 手動提出 | e-Filing |
|---|---|---|---|
| Form BE | 事業所得のない個人(会社員) | 4月30日 | 5月15日 |
| Form B | 事業所得のある個人 | 6月30日 | 7月15日 |
オンラインで出すなら半月の猶予がある、と覚えておけば十分です。
期限を過ぎた場合のペナルティは、申告の遅れと納付の遅れで別々に科されます。納付が遅れた分については、未納残高に対して10%の増額税がかかります。申告そのものが遅れた場合は所得税法112(3)条により、遅延期間に応じて12ヶ月以内で15%、12〜24ヶ月で30%、24ヶ月超で45%と段階的に重くなります。放置するほど積み上がる設計なので、期限を守ること自体が実質的な節税です。
4. 最初の関門 ― MyTaxのアカウント取得
かつてのezHASiLポータルは現在MyTax(mytax.hasil.gov.my)に統合されています。初回登録はオンラインでの本人確認が使える場面が増えてきましたが、書類の状況によってはLHDNの窓口に出向いてパスポートやi-Kadを提示し、その場で発行してもらうほうが確実です。まずオンラインで完結するか試し、無理なら窓口、という順序が無駄がありません。
LHDN Kuala Lumpur Bandar Branch
筆者がこの支店で発行を受けたときは、パスポートを見せてから印刷されたログイン情報を受け取るまで30秒ほどでした。ただしこれは訪問当時の話で、フロアやカウンターの配置、必要書類の運用は変わっている可能性があります。出向く前にMyTaxの案内で最新の手順を確認してください。
5. 納付 ― ByrHASiLか、銀行のPay Bill
税額が確定したら納付です。LHDNの納付サイト(byrhasil.hasil.gov.my)からFPXで銀行口座を選んで支払う方法と、各銀行のオンラインバンキングの「Pay Bill」から支払う方法があります。後者の場合、支払先の検索で Lembaga Hasil Dalam Negeri を選び、半島側であればSemenanjung側を選択します。
入力するのは、税番号・課税年度(Tahun Taksiran)・支払コード(Kod Bayaran)・分割回数(No. Bilangan Ansuran)・金額です。個人が確定した税額を精算する場合も、分割で納める場合も、支払コードは084(Bayaran Ansuran / Baki Cukai)です。選択肢には095(Bayaran Bukan STS)も出てきますが、これは自己申告制度によらない納付のためのコードで、通常の確定申告後の納付では使いません。ここを取り違えると納付が正しく消し込まれない可能性があるため、確定前に画面の表示を確認してください。

支払完了画面は必ず保存する
印刷でもPDF保存でも構いません。あとから納付を証明する必要が出る場面があり、そのときに手元にないと問い合わせから始めることになります。1分で済む作業なので、その場で残しておくのが確実です。
6. 年度途中で退職して帰国する場合が、いちばん詰まる
年度の途中で仕事を辞めて日本に帰る場合は、通常の申告とは別に手続きが必要になります。会社からはCP21・EA Form・PCB2が発行されます。CP21の提出義務は本来雇用主にありますが、本人が書類一式を持ち込む運用もあります。これにパスポートの全ページのコピーと、マレーシアへの出入国のスケジュール表を添えて提出します。
Lembaga Hasil Dalam Negeri Malaysia
Jalan Tuanku Abdul Halim, Kompleks Kerajaan, 50480 Kuala Lumpur
筆者が持ち込んだときは、この住所のビル番号8Aの1階が窓口でした。提出すると受領証がもらえ、納税額はおおよそ1週間で確定して、指定したメールアドレスに書類が届きました。あとはオンラインバンキング等で納付する流れです。これも訪問当時の運用なので、窓口やフロアは変わっている可能性があります。
ここで効いてくるのが冒頭の182日ルールです。その年の滞在が182日に届かないまま出国すると非居住者扱いになり、一律30%が適用されます。逆に言えば、退職後も何らかのビザで滞在を続けて182日を超えるのであれば、いったん納付したうえで還付を申請できる余地があります。そのときに求められるのはEA Form・パスポート全ページのコピー・出入国のスケジュール表の3点です。申請期限は年度やケースによって変わるため、退職が決まった時点でLHDNに確認しておくのが安全です。なお還付そのものは、e-Filingで申告した場合30営業日以内の処理がLHDNの目安とされています。
未納があると出国を止められることがある
未納の税金があると、LHDNが出国差止(Stoppage Order)をかけることがあります。かかっているかどうかはMyTaxまたは入国管理局のサイトで確認できます。全額納付すれば解除され、一括で払えない場合は残額の50%を納付したうえで一時解除を申請する方法もあります(渡航予定日の5日前までの手続き)。帰国便を決める前に、税務側の段取りを先に押さえておいてください。
帰国時にはEPFの払い戻しも並行して発生するので、EPF払い戻しの方法もあわせて確認しておくと動きやすくなります。
まとめ
自分でやる場合の要点は3つです。滞在日数で税率が変わること、e-Filingなら期限に半月の猶予があること、そして帰国が絡むと手続きが増えること。この3つさえ押さえておけば、代行費用をかけずに自分で完結させることは十分に可能です。
なお税務は個別の事情で結論が変わる分野で、様式・税率・期限も年度ごとに改定されます。ここに書いた内容は2026年時点で確認できた公開情報に基づく参考情報です。実際の判断にあたっては、LHDN公式サイトおよびMyTaxポータルで最新の情報を確認するか、税務の専門家に相談してください。



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